農と食をダイレクトに繋ぐことで生まれる
ノーティス(気づき)の取り組み
今津亮 いまづ・りょう

新東名高速道路NEOPASA浜松スマートインターからほど近いところに農園が経営しているレストランがあります。「農+」と書いて「ノーティス」と読ませる店名には、多くの人に美味しい食事を通して、農と食に関する新たな気づきが生まれてほしいという願いが込められています。農園とレストランを経営している今津亮さんにその思いを伺ってきました。

Vol.1  自分が食べているものが、自分の体をつくっている

農+ノーティス

埼玉県出身の今津さんが浜松で農園レストランを開業することになったのは自らの体験が背景にありました。

ノーティス代表、今津亮さん今津亮さん。多くの人に農と食を体感してほしいと語る。

「高校時代に群馬や神奈川、京都や長崎など、全国各地の農家を訪ね歩いたことがありました。アポなしで訪問し数日農作業を手伝いながら、農業についてお話を聞くんです。高校生ですからどの農家さんも快く受け入れてくださるのですが、中には嫌がる農家さんもあって、農業の文化的・多面的機能だけでなく、地域ならではの事情や後継者問題、耕作放棄地の問題など、日本の農業が抱えるさまざまな課題を垣間見た気がしました。浜松を訪れたのもその時です。浜松は気候的にも地理的にも農業を行う適地だと思ったんです」
確かに浜松は日照率が全国でもトップクラスで、実際に農業生産高も全国の上位に位置する一大農産地です。今津さんは気象条件のほかにも次のように浜松を拠点にした理由を教えてくれました。

ショウガ畑

作物にはそれぞれ適した土がある。写真はショウガ。

「三方原の赤土、篠原の砂地、浜北の黒土など、狭いエリアにも関わらず土の種類が豊富なこと、浜松は太平洋側で育てることができる多くの野菜のちょうど南限と北限に位置していることから、より多くの種類の野菜を育てることができるうえ、遠州のからっ風は野菜の糖度を高めてくれるんです」

現在農園で育てている野菜は120種類以上もあるといいます。高校生だった今津さんは農家を訪ね歩いた記録や農に対する自らの思いを論文にまとめ全国農業コンクールに応募、入選を果たします。その論文がきっかけとなり東京農大に進学、農業分野の研究者の道へと歩みを進めることになりました。では、そもそも農家を訪ね歩くことになったきっかけとは何だったのでしょうか。
「高校時代に部活でサッカーをしていてケガをしたことがありました。その治療中に食の大切さを痛感したんです。自分が食べているものが自分の体をつくっている。言われてみれば当たり前のことですが、そのことを実感する機会はなかなかありません。また、そう教えられても実感することはないですよね」

浜松市ノーティスの店内レストランは浜松の木材を使って建てられ、家具やテーブルウェアなども地域の方々の仕事。

浜松市ノーティスの店内から見える畑

店内からは畑が一望できる。

農家を訪ね歩いたのは、食の大切さを実感するには自分の目で見るしかない、自分で手を動かし、自分の舌で味わう。すべてはそこからはじまると感じていました。ちなみに今津さんのご実家はエンジニアリング会社を営んでいるそうです。
「食に興味を持ったとき、本で勉強しているだけではつまらないと思いました。現場を見たい、体感しなくては全然わからないと。工業と農業の違いはありますが、エンジニアの血がそうさせたのかもしれないですね。」
農園レストランノーティスの肉料理

土耕パプリカと甘辛いタレに山椒とショウガがきいた夏野菜と食べる肉料理。

大学を卒業後、浜松市内にある農業開発の企業を経て2011年に独立し、「農+」を創業。2017年11月に農業の魅力を体感できる場所としてレストランをオープンしました。

つづく