びおの珠玉記事

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森里海から・鮎

鮎の塩焼き

私は幼少の頃から海の近くに住んでいますので、鮎を食する機会は多くありませんが、個人的には鮎ほど美味しさに差がある魚は珍しいのではないかと思っています。鮎は一年魚(一年で一生を終える魚)です。秋から冬にかけて親のアユは遡上した河川を下り、下流域の泥の堆積のない粒の小さな砂利質の河床に産卵を行います。卵は10日~14日で孵化し、孵化後すぐに海に下ります。海に下った仔魚は体長50mm~80mmまで成育し、春になると遡上を始めます。遡上中は群れを作りますが、中流域に達する頃には群れを離れ「縄張り」を持つようになります。5月頃から本格的に成長のスピードが増し、2~3ヶ月で20cm以上に成長します。8月下旬頃から淵に集まりはじめ、降雨による増水とともに下流の産卵場所に向かいます。産卵時期のアユは「さびアユ」と呼ばれ雌雄共に体表が黒ずみます。親鮎は産卵後絶命し、一年という短い一生を終えるのです。

鮎のせごし鮎のせごし(ぶつぎりにしたもの)

うるか(鮎のはらわたの塩辛)うるか(鮎のはらわたの塩辛)。島根・高津川産が絶品と菅さん。

以上が天然鮎の一生ですが、鮎は一年のうちに河川の下流域から海に出て、また河川の中流域から上流域まで遡上する回遊魚ですのでダムや堰のある川では世代を繋いでいくことができないのです。しかしながら今、日本では天然鮎が健全に生きていける川は殆どなくなってしまいました。世に出回っている鮎の殆どが放流鮎と呼ばれるもので、天然の河川を泳いではいるものの、春先に下流に放流された稚魚が成長した鮎に過ぎないのです。放流される稚魚は湖産(琵琶湖産)アユや人工養殖のものも多く、生態系の観点からすると遺伝的な問題など多くの問題を抱えています。そもそもその川で生まれ育った鮎ではないわけですから必然的にその味も天然のものとはかわってくるわけです。

もともと日本全国の殆どの川に、その川固有のDNAを持った鮎が生息していたと思われます。そうした健全な生態系に育まれた鮎は、きっと地域を問わずそれぞれに美味しい鮎だったのだと思われます。日本全国の川が健全な生態系を取り戻し、全国各地で美味しい天然鮎を食せる環境が復活することを願ってやみません。「やっぱり土器川の鮎が香川では一番うまいな」「いや、財田川も負けてないよ」「綾川の鮎はうるかにもってこいだ」「江尻川(仁尾)の鮎は小さいけれど背ごしにすると絶品」などという声が香川のあちこちの川魚好きから聞かれるようになると素敵だと思いませんか?
生物多様性の恵み・・・取り戻したいものです。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2016年08月08日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。