色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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映画のワンシーンのような緑陰
——ケア用品店の店先にて

スキンケア製品販売イソップ 東京店の外観

店舗正面、足元の緑。ガラス面に施された透明感のある赤色との対比が印象的でした。

第9回でご紹介した店舗の系列店です。この店舗のデザインはそれぞれ様々な建築家やデザイナーが手掛けられていて、出先で見かけるとつい立寄りたくなるお店のひとつです。
先の記事を書いたのが今年の2月でしたので、約半年後、真夏の日差しを浴びる外観と緑の関係を見てみたい思い、写真を撮りに出かけました。

台風12号が過ぎ去った週明け、関東にはまた強い日差しが戻ってきました。この夏、30度以上は当たり前、連日最高気温が35度を超える地域も多く、関東以西では今までに体感したことのない暑さに見舞われています。こうした気温の中で生活していると、外を歩くときはやはり木陰に誘われますし、何より強烈なまぶしさから逃れて眼がホッとします。

店舗の足元にある緑は、高さも低くボリュームは少ないのですが、舗装と建物をきっちりと分ける境界線のようになっており、歩く目線に対し目を引く存在です。さらに、緑の上の部分が大きなガラスの開口部になっているので、この部分は開放的でありながら、暗く見えます。周囲の壁は濁りのない白で、開口部を門型に囲むような設えとなっていることから、影になっているガラス面と周囲の白い壁との対比が、足元の緑の存在を際立たせている、と考えることができます。

イソップ 東京店入り口

外観とサクラの緑陰の対比。涼し気です。

店舗サインは一点のみで、余分な装飾を極力省いた外観ですが、良く見ると建具の木やガラス面のカラフルなシート(これは季節毎に変化します)には色気があり、足元の緑と同様、明るい白・奥行きのあるガラス面の暗さとの対比が人目を誘います。

イソップ 東京店入り口

入口部分。天気の良い日にここを通る度、ドラマチックな気分を味わっています。

これまで何度か、このコラムでは直接的な緑が豊富でなくとも「緑量」を感じることができ、周囲の緑を(意図的でなくとも)呼び込むことが演出となる「もてなす緑」の存在を取り上げてきました。こうして緑を意識してまちを歩いていると、個々の店舗や住宅の緑が印象的に見えてくること以上に、まちを繋いでいる公共の緑の存在が個の小さな緑ともつながりを生み出しているのだな、という風に考えるようになりました。色やかたちは近い者同士がまとまりを持つ、という心理的な特性を持っていますが、緑もその特性に当てはめると、様々な規模や用途で構成されている人工物(=建築物)よりも近似性・類似性が高く、連続性やまとまりを意識しやすい存在であることに気が付きます。

目黒川の桜並木とイソップ東京店

見上げるとサクラの枝が大きく建物側にせり出している様子がよくわかります。

白く明るい壁には正面にあるサクラの木々の影が映し出されているのですが、風がある日は影も揺らいでいます。このゆっくりとした動きはまるで映像作品のようで、思わず足を止め見入ってしまうことが多くあります。この時ばかりは、姿の見えないサクラの緑陰が主役となっています。

Vol.17 加藤幸枝色彩のフィールドワーク:もてなす緑

白く明るい壁面。むかって右に奥行きがあり、徐々に陰影がついています。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★
全体のカラフル感 ★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。