移住できるかな

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お陽さま争奪戦

西本和美 移住できるかな

移住地さがしも長くなると、珍しいルートから情報が舞い込むことがあります。今回は伝言ゲームのように、太陽光発電の会社に辿り着きました。正直言うと、それまで太陽光発電会社は敵でした。近年とくに国の補助金を得て、どんどん陽当たりのいい南斜面を専横しているからです。
田舎道を走っていると唐突に、ずらり整列するソーラーパネルに出くわすことが多々あります。再生可能エネルギー。建物の壁や屋根に載せるぶんには土地は不要ですが、中山間地域では休耕田や森林を伐採して設置されます。
私が辿り着いた太陽光発電会社では、そうした予定地の一部を手放すとのこと。なんと、ありがたい話でしょう! 私にとっても地域の人々にとっても喜ばしい話だと思います。

大分県ののどかな橋脚の下

橋脚の下の川沿いの土地。廃車されたバスが休憩所だそう。耕す暮らしを楽しんでいる。

冬晴れのある日、スーパーの駐車場で待ち合わせてE町の七カ所を見物します。あらかじめ用意してくれた地図資料を片手に、丘の上の茶畑、橋脚を見上げる川沿い、もと蜜柑畑だった竹薮……なかなか非凡なラインナップです。感心するのは、すべてさんさんと陽光の降り注ぐ南斜面の土地で、一見は荒れ果てていても揚水小屋があるなど、暮らすための必要条件は抑えています。さすが土地さがしのプロ、頼もしい限りです。このどこかにきっと私の新天地があるはず、と期待に胸踊ります。

集落の憩いの場

公園のように丹精された土地。樹の下にベンチが据えられている。

七カ所の一つ、山麓に拓かれた小さな集落の一隅に、公園のような土地がありました。平らにして草を刈り、山桜を植え、大樹の下にベンチが据えられています。きっと、この集落の憩いの場です。片隅にある納屋の壁には、クワやカマが整然と掛けられており、この土地を長いあいだ丹精してきた、その方の努力を読み取ることができます。ところが残念なことに、その方(おじいちゃんだそう)が亡くなり売却されるとのこと。
なんと素敵な公園でしょう。この大樹を伐り倒して、家を建てる気にはなれません。集落に、こんな素敵な場所を作ったおじいちゃんに、会ってみたかったなぁ〜。

巡った七カ所の一つに、山の果樹園がありました。なだらかで低い山が大中小、とんとんとんと行儀よく並んでいます。紹介された果樹園は、小のところ。大中はすでに伐採され、一面にソーラーパネルが並んでいます。そのソーラーパネルに囲まれて、小さな一軒家が見えます。聞けば十年以上前に遠方から移住してきた家族とのこと。森林の中の一軒家が、ある日突然、禿げ山の一軒家になったのです。お気の毒すぎる……やはり太陽光発電会社は敵でしょうか。

著者について

西本和美

西本和美にしもと・かずみ
編集者・ライター
1958年 大分県生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。住まいマガジンびお編集顧問。主に国産材を用いた木造住宅や暮らし廻りの手仕事の道具に関心を寄せてきた。編集者として関わった雑誌は『CONFORT(1〜28号)』『チルチンびと(1〜12号)』『住む。(1〜50号)』。