びおの珠玉記事

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体験しました!「梅の土用干し」

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2008/08/04の過去記事より再掲載)

もう一つの「土用の丑の日」

小野寺光子梅干しイラスト

 

土用の丑の日といえば、まず鰻を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は、夏の土用は梅干しを作るのに欠かせない作業、「梅の土用干し」の時期でもあります。
自然食品店を営むSさんからその話を聞いた、梅干し作りをしたことがない私・記者Y。 「一緒にやってみませんか?」というお誘いに、今回、梅に赤ジソを入れる作業と、梅の土用干しを体験させていただきました。

まずは、梅を下処理して白梅酢をつくります

Sさんは毎年自分で梅干しを作っています。また、これまでに3回ほど、お店で「梅干し作りの会」を開いてきました。今年は、6月初旬に梅(写真1)が、6月中旬に赤ジソが入荷しましたが、以前に比べて、入荷の時期が早まっているそうです・・・地球温暖化の影響でしょうか?

入荷した梅

写真1:温暖化の影響か、このところ入荷が早まっているという梅。

梅干し作りは、梅が手に入った時からが始まりです(写真2)。まずは、梅を下処理して、塩漬けにします。塩漬けの際には、一粒一粒に塩をもみつけます。そして重しをして冷暗所に保管しておきます。

梅干し作りのスタート。

写真2:梅干し作りのスタート。

塩漬けをして2~3日くらいすると、透明な白梅酢が上がってきます(写真3)。

白梅酢

写真3:塩漬けから2〜3日で、白梅酢が上がってきます。

梅酢が上がったら、今度は赤ジソの出番です。今回Yは、ここから体験させていただきました。

「今年もこの赤色に出会えた」
──白梅酢と赤ジソが生む自然の美しさ

赤ジソは、枝つきの束で売っています(写真4)。まず、その赤ジソの葉を摘み取ります。大きめのボールとザルがいっぱいになった赤ジソを、水で洗い、水を切っておきます。

赤ジソ

写真4:梅干しには欠かせない赤ジソ。

次に、すり鉢に赤ジソを入れ、塩をふり、手でもみます(写真5)。もんでいくうちに、すり鉢いっぱいだった赤ジソのかさが減り、手のひらに収まるくらいになります。赤黒いアク汁が出ますので、しぼって捨てます。

赤ジソの下処理。

写真5:塩をふり、手でもみます。

その後、もう一度塩をふり、手でもみます。今度はきれいな紫色のアク汁(写真6)が出てきました。このアク汁も捨てるのですが、Sさんは、「この色が、本当に美しく、楽しみにしています。毎年、今年もこの色が見られたな、と思います」とおっしゃっていました。

赤ジソのアク汁

写真6:今年もこの色が見られたな、という赤ジソのアク汁

この赤ジソに、適量の白梅酢を加え(写真7)、手でもみます。

赤ジソに白梅酢を加える

写真7:しぼった赤ジソに、適量の白梅酢を加えます。

すると梅の酸で発色し、急に、はっとする程の鮮やかな赤色に変わります(写真8)。「この色の変化も楽しみです。自然の美しさに出会う瞬間で、梅干し作りの楽しいひと時です」とSさん。赤色になった梅酢を容器に戻し、この作業を何回か繰り返します。

赤紫蘇の色の変化

写真8:これも楽しみだという、鮮やかな色の変化。

土用まで、風通しのよい場所に保管します

赤ジソをほぐし、梅の上にのせていきます(写真9)。全体が梅酢にひたるように軽く重しをし、容器にふたをして紙などで覆い、土用まで風通しのよい涼しい場所に置いておきます。紙に作った年月日、塩の割合(%)や、その時のことを書きとめておくと、後で分かりやすいそうです。時々様子を見て、カビなどが生えていないかどうか確認します。

赤ジソを梅にのせる

写真9:赤ジソを梅にのせていきます。

天日で3日、最後の1日は夜露にも

土用の頃になったら、晴天の続きそうな日を選んで、3日間梅を天日干しにします。赤ジソも一緒に干します。梅酢も、容器ごと日に当てておきます。途中、梅を一粒ずつ返して、全体を日に当てるようにします。最後の1日は、夜にも干し、夜露に当てます。この日ばかりは梅のすぐ近くで寝て、急な雨に備えるそうです。

今回土用干しをした日はとても暑く、ジリジリと日射しが照りつける日でした。土用干しの効果が、大いに期待できそうです(写真10)。

土用干しの様子。

写真10:土用干しの様子。

土用干しをした後は、梅を容器に戻し、上に赤ジソを平らにのせて、軽い重しをし、容器のふたを紙などで覆い、冷暗所に保存します。少量は、干し終わったものをそのままびんに入れて食べます。梅酢に戻したものより、まろやかで上品な味が楽しめます(写真11)。

瓶に入った梅干し

写真11:梅酢に戻さずに食べる分も。

Sさんは、土用干しについて、次のようにお話してくれました。「土用干しをすることによって、風味が増します。干す前と干した後では全然味が違います。梅はやわらかくなり、色も濃くなります。水分を少なくし、細菌やカビの繁殖を抑えて、梅干しの保存性を高めます。土用干しをすることによって、太陽や自然からエネルギーをいただくのだと思います」。

後世に伝えて生きたい“梅干しという食品の持つ生命力”

Sさんは続けて、梅干しそのものについてもいろいろと語ってくれました。「梅干しには数え切れないほどの効能があり、1年を通して身体によいのですが、夏は特におすすめです。夏はたくさん汗をかき、塩分やミネラルが身体の外に出て行ってしまいますが、梅干しを食べることで補給できます。
梅にはクエン酸が多く含まれていますが、クエン酸が新陳代謝を活発にし疲労物質の乳酸を燃焼させて、疲れを回復してくれます。また、梅には強い殺菌力がありますから、食中毒の防止にも役立ちます。夏は食欲が落ちてしまいがちですが、梅には胃酸の分泌を正常にする働きや、腸のぜん動運動を盛んにして、腸内の有効菌を育て、雑菌を殺す働きがあり、胃腸の調子を整えてくれます」。

そしてさらに、「最近では、梅干しと言っても、天日干しをしていないもの、実質酢で漬けただけの酢漬け、着色料で赤い色を付けたもの、酸味料や香料の入ったもの、保存料が入ったもの、なども売られています。これらは本来の「梅干し」とは異なるもので、梅干しという食品の持つ生命力に欠けると思います。本来の製法や材料によらず、手間や時間をかけず、食品添加物によって作った、梅干しのような、でも本来の梅干しではないもの。悲しいことです。

梅干しの製造ラベル

写真12:製造ラベルの原材料欄の違いに、あらためて驚かされる
(上:Sさんのお店で販売の梅干し・下:市販品。)

梅干しは、日本が作り出した、世界に誇れる伝統食品です。ずっと昔から日本人の身近にあった食品ですが、作り方を後の世代に伝えていきたいと思っています」。

自然の恵みをいただいて
──もっと梅干しを食べるぞ!

私Yは、梅に赤ジソを入れる作業と、梅の土用干しを体験してみて、材料である梅と赤ジソと塩についても、天日に干して夜露に当てることについても、自然や太陽から恵みをいただいている、という気持ちになりました。

そして、梅干し作りをしている間、ゆったりした豊かな時間が流れているように感じました。梅干しは、スローフードの最たるものの1つではないでしょうか。来年は最初から梅干し作りにチャレンジしてみたいです。それに、単純で恥ずかしいですが、もっと梅干しを食べよう!と思いました。

小野寺光子梅干しイラスト

 

イラスト:小野寺光子