「ていねいな暮らし」カタログ

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移住のススメ方——『自休自足』

前回の最後に、暮らし系雑誌の傾向として4つのことを挙げました。今回は、その4つ目に挙げた「移住」に関する雑誌として『自休自足』を取り上げてみたいと思います。本誌は、2003年に『Lives』の増刊として始まり(本誌も2003年に始まったのですね!)、2012年夏以降は『TURNS』と名前を変えて刊行されています。

『自休自足』の主なテーマは、都会から地方に生活の拠点を見出そうとする人たちに向けて、移住のノウハウや生活のDIYの方法を共有すること、そのような選択肢を持つために必要な情報を伝えることにあります。田舎でセルフビルドしながら暮らす人たちの様子がインタビューを通して語られるとともに、移住の心得や小屋づくりといった個別の活動のいろはを紹介、毎号の巻末には全国の物件情報を載せるなど、田舎暮らしのストーリーだけでなく、実用的な情報や数値もあることが特徴です1

自休自足

実践者インタビューと移住のいろはを伝えるページの棲み分けがきっちりしていて、インタビューでは見開きいっぱいに上空から撮影した自給自足の畑の様子がわかる写真が使われたかと思えば、家づくりに携わる道具だけが接写された写真が用いられるなど、これまで見てきたような暮らし系雑誌の暮らし語りの特徴が表れています。本誌で一度取材した人たちの5年後を再取材するなど、「ていねいな暮らし」ぶりを持続的に見せようとする一幕も。穿って見ると、あまりにも美し過ぎる田舎での生活というようにも見えるのですが、そこに移住情報ページでもって補足が加えられ、現実的な部分を読者に突きつけます。

移住情報ページでは、今各地で起こっている過疎化の話や不動産を購入する時に気をつけるべきことなど、個人ではなかなか向き合いきれないような問題を読ませる記事もあれば、AtoZのやり方で、空き家バンクからパーマカルチャーといったキーワードの意味を伝え、田舎で働くためにどんな本やウェブサイトを読んだらよいかを指南するなど、本誌が読者とその土地の一次情報とを繋げるハブになっています。第2回で触れた地域文化誌などのローカル・メディアが、地域を知る手がかりとして紹介されているのもいいなと思いました2。その街に住む人たちの今の情報や活動を知ることは、私自身の経験から言ってもとても大事なことです。「ゴミを捨てること」一つをとっても地域によってやり方はさまざまで、その面倒さも含めて知っておいた方がいいはずですから。

このように、『自休自足』は一人一人の小さな生活実践に目を向け、どこでどのような暮らしをするかを考える情報誌としてありました。冒頭でも書きましたように、2012年に本誌はリニューアルします。『TURNS』については、また次回に。

(1) 実用的な情報を多く掲載する雑誌として『田舎暮らしの本』もありますが、この雑誌は表紙に補色を多く使うからか「どぎつい暮らし」が掲載されていそうな趣きで、「ていねいな暮らし」の読者を分かつデザインかと思います。この辺りについては、またどこかの回で触れてみたいところです。
(2)『自休自足』vol,21 2008春 p.98

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。