ぐるり雑考

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年周期で生きる

西村佳哲

猟師見習中の若い友人がいる。十数年の付き合いで、初めて会った頃はウェブデザインやギャラリースタッフの仕事をしていた。実家は洋菓子店で、お土産でもらう黒豆のマドレーヌが美味しい。

家業の手伝いに戻っていた時期もあった。が、あるとき「猟師になろう」と思ったようで、1年ほど前に某山里の地域おこし協力隊に応募。子ども3人+夫婦で移り住み、小さな家で暮らしている。先日泊めてもらって茶飲み話を交わしていると、彼が「年収100万円の仕事を4〜5本しながら暮らしてゆきたい」と言う。

罠猟

いま学んでいるのはワナ猟。先達の講習会に足を運んでは、凹んで帰っているという。自分の仕掛けたワナを見回りにゆくと、その手前で獣の足あとが止まっていたり、かぶせた土が鼻先で剥がされていたり。まだそんな力量で、捕獲率は高くはない。
でもすべて自分次第。なにが悪かったのか、学べる材料はすべて現場に残っているし、思い通りにいかなくても誰か他人のせいにする必要もない。腕を上げればいいだけ。獣害は増える一方、かつ猟師の数は減ってゆく一方なので「10年後はすごく重宝されている予定!」と笑う。

あと猟の他にデザインの仕事をしている。サイトも構えていないので、頼んでくるのは、口伝えで聞いた人や出会った人だけ。
頼まれているのは「デザイナー」でなく個別具体的な「彼」だから、本人の力量やセンスを越えた的外れな期待はあまり寄せられない。結果として、こっちの仕事も極めてストレスがないようで、本当にのびのびと、働いて、暮らしている。

「月○万円の仕事を××個持とう」といった働き方の提案を、ときどき見かける。一つの仕事や勤め先に縛られず、小さな仕事を併行的にいくつか手がけてゆく方が、実はリスクも低いし、仕事に対するオーナーシップも持ちやすいという考え方。30歳で会社を辞めてから、僕も常に複数の仕事をして生きてきたので「まあそうだよね」と聞き流していたのだけど、彼と話しながらあることに気づいた。

その若い見習猟師&デザイナーは「年収100万円の仕事を4〜5本」と言った。「月○万円」でなく「年○万円」と述べている。ここは面白いところなんじゃないかな。

彼は猟期の冬を迎えると山に入る。夏場に仕留める鹿の肉の美味しさを嬉しそうに語る。考えてみれば、農家の人も稼ぎを月収では語らない。彼らは年周期の中。季節の中で働いて、暮らしている。
逆に前者は〝月々〟の単位で生きている。それは言わずもがな会社員的で、ローンやカード決済的で、かつ都市的だ。寒い暑いの変化はあるものの、12ヶ月はフラット化しているように思う。

何気ない言葉づかい一つに、本人が生きている世界の違いが、あらわれている気がしたんですね。

著者について

西村佳哲

西村佳哲にしむら・よしあき
プランニング・ディレクター、働き方研究家
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。多摩美術大学、京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。