配給制度が残る国・キューバで見た6つのキッチン

世界のキッチン おじゃまします! 
配給制度が残る国・キューバで見た6つのキッチン

キッチンは個人の料理の好き・嫌いに関わらず、必ずと言っていいほど家の中にある。どんなに小さい居住空間でもキッチンは欠かすことのできない存在だ。このキッチンに付随する炊事機能は世界共通だが、国が変われば料理が変わり、それに従って設えや暮らしのなかでの立ち位置も異なるのではないだろうか。その国の暮らしをキッチンから覗いてみようと思い、最初は社会主義国・キューバで取材することにした。現地で思わぬ縁がつながり取材した「6つのキッチン」から見えてきたのは、キューバの人びとの、小さい空間を上手に工夫して使う柔軟さと物がなくても自分たちで発明してしまう賢明さ、そして料理がキューバの人にとって非常に日常的な行為ということだった。

文・写真=山口祐加

Vol.1  必要最低限の家に
住むロメロ一家のキッチン

繁華街のなかの静かなキッチン

キューバで最初に取材したのは、首都・ハバナの中でも観光客が多いオールドハバナに住むロメロ一家だ。街のにぎやかなメイン通りの一角にある階段を上がると、ひっそりと彼らの住まいがある。かつて豪邸だった19世紀に建てられたコロニアル様式の家を、小さく区画分けした集合住宅になっている。

キューバのメイン通り・オビスポストリート

メイン通り・オビスポストリート

キューバの集合住宅の中庭

日差しが気持ちいい中庭

1階にキッチン・バス・トイレ・リビング、2階に寝室というミニマルな住まいだ。ここに夫のエリオマル・フェルナンデ・ロメロ、妻のイラセルマ、娘のアイタナの3人で暮らしている。

知人の紹介とはいえ、懐かしのテレビ番組『突撃!隣の晩ごはん』と同じようにいきなり「キッチンを取材したい」とやってきた私を、妻のイラセルマさんは快く受け入れてくれた。

キューバのキッチン

随時換気状態なのでキッチンには換気扇がない

小さな玄関を入ると、すぐ正面右手にキッチンがある。横に長いキッチンは、狭すぎず広すぎずちょうどいい感じのサイズ感だ。このキッチンに毎日立つイラセルマさんに、普段の食事について話を伺った。

キューバ人の奥様

穏やかに話をする妻のイラセルマさん

「料理をするのは夫婦揃って好きで、夫と毎食交互に料理を作っています。今晩の鶏肉とオクラのトマト煮込みは彼が作ったものですよ。食材はできるだけ自然なものを使っていて、クミンやローレルなどのスパイスもよく使います。
料理の食材ですが、キューバには食糧配給制度があるのをご存知でしょうか? 国民に安価で食料を配給する制度で、米・豆などの主食類、鶏肉・卵などのたんぱく質類、塩・油などの調味料が含まれています。家族の人数分を仕入れられるのですが、それだけでは量が足りず市場などで買い足しています。」

月ごとに項目分けされた配給手帳

話を聞きながらキッチンを観察していると、シンク上の食器棚の下部に大きな窓があることに気づいた。
キューバの①調理器具の収納場所、②食器類の収納場所、③水切りかごの3つの機能を持つ非常に合理的な作りの棚この棚は、①調理器具の収納場所、②食器類の収納場所、③水切りかごの3つの機能を持つ非常に合理的な作りになっている。これから紹介していくキューバで取材した5つのキッチンでは、高い確率でシンクの上に収納棚兼水切りかごが設置されていた。個人的に日本ではあまり見たことがないが、料理をよくする身としては食器を拭く手間と収納する手間が省け、スペースの有効活用にもなり効率的で良いなと思った。

料理は毎日の営み

話の途中で夫のフェルナンデさんが帰ってきて、夕食の準備が始まった。事前に献立を共有していたのかもしれないが、お互い特に言葉も交わさずにテキパキと夕食の準備をしていて不思議に感じた。
彼は料理を作りながら私に「彼女は毎回ご飯とチキンなどほとんど同じ料理ですが、僕は新しい料理を作るのが好きで、毎回違う料理を作ります。でも彼女はいつも同じ」とニヤリと笑った。

言葉をよそに、彼女は直火でピーマンの薄皮を焼く。個人的な話になるが最近ガスコンロを新しくした私の実家のキッチンは、いわゆる高性能キッチンで鍋を置かずに火をつけることはできない。海苔をあぶるにも、一度鍋を置いてからまた外すなど一苦労する。安全性の問題はあれど、やはりシンプルな構造のガスコンロが使いやすいなと観察していて思った。

あっという間に夕食が完成し、私だけ先にいただくことになった。初めて訪れた国で初めての夕食がまさか地元の人の家庭料理だとは思わず、快く受け入れてくれた懐の深さと、料理の素朴なおいしさに感動して少し泣きそうになった。

ロメロ一家のある日の献立
・ご飯
・鶏肉とオクラのトマト煮込み
・トマトサラダ
・ピーマンのマリネ
・バナナのフライ

ロメロ一家は毎日三食必ず全員で食べるそうだ。私が食事を取っている間、まるで娘のように私を見ながら夫婦揃って同じ空間に居てくれた。ひとりぼっちで食べることがない家族ならではの振る舞いだなと感じた。
あたたかいキューバの洗礼を受け、幸先が良い初日の夜だった。

次回は、キューバキッチン取材のキーマンにもなったハバナ在住の日本人女性のキッチンを紹介したい。


山口祐加  やまぐち・ゆかフードプランナー・ライター

1992年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部でインタビューとフィールドワークを学ぶ。卒業後、出版社とPR会社を経てフリーランスのフードプランナー、ライターとして独立。現在はWEBメディアを中心に執筆を行う傍ら、POP UPで居酒屋や社食を開くなど食に関するイベント多数も行う。好きな食べ物はお刺身とおみそ汁。