色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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店内の印象的な緑に誘われる
––カフェの店先にて

南の方から徐々に梅雨入りの知らせが届く季節となりました。東京でもこのところ週初めの天候がぐずつきがちで、この先雨が続くことを思うとやはりどうしても憂鬱な気持ちが頭をよぎります。そうした状態に陥るのは仕方がないとして……。最近はできるだけ早いうちに「自分で自分を立て直す」ことを意識していて、「ああ、これが良い状態だな」と思える事象をいくつも頭の中の引き出しに入れておき、出し入れしやすくすることを考えています。
これも一種のルーティーンといえるのかも知れませんが、定期的に文章を書いたり、季節の色を探したりすることは、自分を「良い状態」に持って行くためにとても大きな役割を果たしているようです。

ブルーボトルコーヒー 中目黒カフェ (Blue Bottle coffee )

外観正面。外壁はニュートラルな白ですが、細いリブ状の外装材による陰影のお陰で落ち着いた印象です。

さて、今回もそんな風に「もてなす緑」を探しながらまちを歩いていたら、外装・内装デザインでも話題になったカフェが確かこの通りにあったな、ということ思い出しました。事務所から歩いて12~13分のところにあるこのカフェは古い印刷工場を改装したもので、大きな開口部越しに内部の高い天井や2階の様子を伺うことができます。外部にプランター等は一切置かれていないのですが、どうも緑の気配を感じるな……と思いながら近づいていくと、見えていたのは店内にある緑でした。

昼間ですから外から見ると店内の方が暗いはずなのに、緑のある一画はとても明るく、光を放っているように見えました。店内は高い天井のお陰でとても開放感があり、思い思いの場所でコーヒーを楽しめるようになっています。緑があるのは店内のほぼ中央、鈍い光沢を放つステンレスのカウンターの背後で、上からの照明によって印象的な演出がなされていました。コーヒーマシンの他、ホットサンドをつくるプレス機などもきれいに磨き上げられ、無機質な素材のテクスチャーと柔らかそうな緑との対比がとても絵になる風景となっている、と感じました。こうした鮮やかな・しっかりとした対比も、調和した(バランスの取れた)印象をもたらすものです。
店内の緑が印象的に見えていたことのもうひとつの事由として、中明度の建具の色の存在があるのかもしれない、と思いました。測ってみるとグレイに見える塗装色はほのかに色味があり、GY(グリーンイエロー・黄緑)系でした。GY系は植物の葉の色が持つ色味と同等です。店内の様子を切り取る「額縁」のような建具の色気が、奥にある緑をさりげなく引き寄せているのではないか、と推測しています。

ブルーボトルコーヒー 中目黒カフェ (Blue Bottle coffee )のロゴ

外装色は白ですが、陰影のお陰で少し明度が下がって見えます。

ブルーボトルコーヒー 中目黒カフェ (Blue Bottle coffee )の壁色

建具の測色の様子。グリーニッシュなグレイです。

この日は平日、仕事の合間でしたのでゆっくり一服、という訳にはいかず、アイスコーヒー用の粉を買って来たのですが、お店を出る頃にはすっかり天候のことなど忘れてしまっていました。印象的な緑に誘われ、気持ちの良い接客に出逢い、明日のため・誰かのために買い物をする……。気持ちを切り替えるためのスイッチ、覚えておきたいものです。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★
全体のカラフル感 ★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。


加藤幸枝

加藤幸枝  かとう・ゆきえ色彩計画家

1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。