千葉大学の空き家プロジェクトのプランター

農的な暮らしがつなぐ「私たちの都市計画」

「ていねいな暮らし」に憧れる向きが強まる中で、自然の恵みを実感できる農業に関心を寄せる人たちが増えてきました。積極的に園芸やベランダ菜園、地方移住などして自給自足を志向する20-30代の若者も目立ちます。
植物を育て、収穫物を共有することで、まちや人とのつながりを築いている人びとや活動があります。そこにある工夫や意味を探る中で、ゆたかな生活の輪をつなぎ、一人ひとりの生活から紡ぐ「都市計画」のありようも見えてきました。

文・写真=江口亜維子

Vol.4  「食べられる景観」づくり
〜エディブルウェイの取り組み

前回まで、津端夫妻の暮らしぶりや阿佐ヶ谷住宅での生活、あるいはアメリカ・シアトルで広がる市民農園「P-Patch」について紹介してくれた江口さん。その後大学で学んだ「エディブル・ランドスケープ(食べられる景観)」に興味を持ち、松戸市をフィールドに「エディブルウェイ」プロジェクトを立ち上げました。日本に古くからある地先(あるいは路地)園芸のような「食べられる景観」づくりです。人やまち全体をつなぐ仕掛けになるという「エディブルウェイ」。その仕組みについて紹介してもらいます。

「食べられる景観」って何?

現在、所属している研究室の木下勇教授のもとで「エディブル・ランドスケープ(食べられる景観)」のことを学びました。エディブル・ランドスケープとは、「植栽の大多数の部分が食べられるもの(果実や木の実、葉など)を提供する景観」を意味します。もともとは家庭の敷地内の園芸において使われた言葉であり、「食卓においしく健康的なものを運び、水や土、エネルギーの消費を切りつめ、食べられる植物をもちいて美しくよく計画された景観をつくること1」をいいます。人々のコミュニケーションを促し、強いコミュニティ形成に寄与する2ともあります。
江口亜維子農的な暮らしがつなぐ「私たちの都市計画」第5話
研究室の博士課程の友人ソフィアさんから教えてもらった、イギリスのトッドモーデンという町では「インクレディブル・エディブル」という取り組みで町中に食べられる植物が育てられていて、誰でも食べられるようになっています。許可を取らずに使われていない場所にとにかく植えてみることから始まり、メンバーシップは、「If you eat, you are in. (食べる人はみんな参加者)」と町中の人々を巻き込み、今では、世界へ広がるムーブメントです。

「食べられる景観」を日本でも展開したい!

2011年の東日本大震災の時に、震災直後の数日、物が買えず、食べ物がどこから運ばれてきているのかということを意識するようになりました。同時に、当時住んでいた阿佐ヶ谷住宅で近所の人たちに、精神的にも物理的にも助けられる経験をして、コミュニティの大切さを実感しました。そして、果樹や小さな畑もあった阿佐ヶ谷住宅のコモンで経験していたことは、まさに「エディブル・ランドスケープ」であったことに気がつきました。

日本では、海外の事例のように、公共空間に食べられる植物を植えて、みんなで分け合うということは、なかなか難しいことを知りました。衛生面の問題や、公共の場で、特定の誰かが享受できるものを植えてはいけないという考え方のためです。大学の近くにも、空き地を活用してつくられたコミュニティガーデンがありますが、野菜を育てることは許されていません。

海外の事例に勇気づけられつつ、では、日本ではどうやったらエディブル・ランドスケープが実現できるのだろうと考えたときに、思い出したのが、阿佐ヶ谷住宅の植栽計画に携われた田畑先生から教わった日本の地先園芸の文化でした。家の前で植物を育て、路地では道にはみ出すように植物の鉢を置いているお宅もあります。私的な営みながら、道ゆく人たちを楽しませたり、話の種になったり、公共的な意義を持つ営みであると言えます。

地先園芸

四季折々、植物を楽しませてくれる地先園芸

日本古来の園芸手法「地先園芸」に学ぶ、
エディブルウェイの始まり

阿佐ヶ谷住宅のコモンのような空間を現代の都市空間に生み出すことは難しいかもしれません。でも、道路に面した小さくてもオープンな空間で、一人ひとりが地先園芸的に植物を育て、つなげていけば、まちの中にエディブル・ランドスケープを実現できるかもしれない。持ち運び可能なプランターにすれば、邪魔になれば動かせばいいし、限られたスペースをうまく使えるのではないか。そして、そこで生まれる緑を介したコミュニケーションが、いざという時に助け合えるゆるいご近所のつながりができるのではないか。そう考え始めたのが、「EDIBLE WAY(エディブルウェイ) 食べられる道」プロジェクトです。

「EDIBLE WAY(エディブルウェイ) 食べられる道」イメージ図

「EDIBLE WAY(エディブルウェイ) 食べられる道」イメージ図

家の前やお店の前など沿道のスペースに、お揃いのロゴをシルクスクリーンプリントしたプランターを置いて、住民たちが野菜やハーブなど食べられる植物を育てています。
道沿いに、食べられる植物を植えたおそろいのプランターが並ぶことで、人と人、人と緑をつなぐ「食べられる=エディブル(Edible)」「道=ウェイ(Way)」となり、エディブル・ランドスケープを展開する「方法(=Way)」となる、という2つの意味があります。

2016年から、JR松戸駅から千葉大学松戸キャンパスまでの約1kmの沿道の住民の方に参加していただき、園芸学研究科木下勇地域計画学研究室のコミュニティスタディグループの学生と一緒に活動を始めました。プランターで育った野菜は、基本的には育てている各家庭で食べますが、ときには地域の人と各家庭で育てた野菜を持ち寄って、ごはん会も計画しました。

千葉大学の空き家プロジェクトのプランター

エディブルウェイの道沿いにある空き家の雨戸には、エディブルウェイをテーマにした黒板アートが。

千葉県松戸市EDIBLE WAY(エディブルウェイ) 食べられる道

地先園芸的にプランターをおいて野菜やハーブを育て、エディブル・ランドスケープをつなぐ。

エディブル・ランドスケープの食事会

空き家で収穫した野菜を持ち寄り、鍋をつくって食べた。

最初は数軒だった参加者も、ご近所同士のつながりや、立ち話などから、その輪が広がり、2018年には、47世帯。合計100個近いプランターが置かれるようになりました。

さて、次回はいよいよ最終回。今回紹介した「エディブルウェイ」の取り組みに実際に参加した方々の声をひろってみたいと思います。

(つづく)

(1)ROSALIND CREASY:“THE COMPLETE BOOK OF EDIBLE LANDSCAPING”, SIERRA CLUB BOOKS, SAN FRANCISCO,1982
(2)木下勇, 吉川仁(1999)「都市におけるエディブル・ランドスケープ (食べられる景観) の意味と役割について-東京都下の三住宅地の実態調査から」, 都市計画 別冊, 都市計画論文集

江口亜維子

江口亜維子  えぐち・あいこ千葉大学大学院園芸学研究科博士後期課程在籍

1981年石川県小松市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、設計事務所で国内外の地域計画、建築企画設計に携わる。2012年より「カレーキャラバン」、2016年より「EDIBLE WAY食べられる道」開始。阿佐ヶ谷住宅(東京都杉並区)で暮らしたことがきっかけで、コモンスペースに関心を持つように。現在、エディブル・ランドスケープや共食活動を手がかりに、都市コモンズに関する研究を行う。