江口亜維子農的な暮らしがつなぐ「私たちの都市計画」第3話

農的な暮らしがつなぐ「私たちの都市計画」

「ていねいな暮らし」に憧れる向きが強まる中で、自然の恵みを実感できる農業に関心を寄せる人たちが増えてきました。積極的に園芸やベランダ菜園、地方移住などして自給自足を志向する20-30代の若者も目立ちます。
植物を育て、収穫物を共有することで、まちや人とのつながりを築いている人びとや活動があります。そこにある工夫や意味を探る中で、ゆたかな生活の輪をつなぎ、一人ひとりの生活から紡ぐ「都市計画」のありようも見えてきました。

文・写真=江口亜維子

Vol.3  コミュニティガーデンを都市の景観に
〜P-Patchプロジェクトの取り組み

阿佐ヶ谷住宅での暮らしを通じて、植物を育てることが人と人との程よい媒介となることに気づきはじめた江口さん。ちょうどその頃、アメリカ・シアトルにあるコミュニティガーデン「P-Patch」プロジェクトを知り、その拠点を数ヶ所訪れました。今では市内に80ヶ所以上も広がるコミュニティガーデンは、もともとある社会問題を解決するために学生や市民がつくりはじめた場所でした。日本のまちづくりにも参考になる視点がいっぱい。どんなプロジェクトなのか、4つの事例を紹介してもらいます。

市民農園?それとも公園?

大学の都市計画学の授業で、ワシントン大学のJeffry Hou先生が、シアトルのコミュニティガーデンP-Patchプロジェクトの紹介をしてくれました。見せてもらった写真からは、市民農園のようでありながら、公園のように自由に人が出入りできるとても楽しそうな雰囲気が見て取れました。少し雑然とした、いろんな人の手が入っていることが想像できる雰囲気に、形は違いながらも、阿佐ヶ谷住宅のコモンスペースに似たものを感じました。何よりも、計画された都市計画ではなく、住民が地域にある空間を楽しく使うことで自分たちの場所をつくる数々の事例に、とてもワクワクしました。

シアトルのP-Patchガーデンは、1970年代のオイルショックの時に、輸送される野菜が高くなったことがきっかけで、学生や地域の人たちが知恵を出し合い、小さなコミュニティガーデンをつくり、自分たちで野菜を育てたことがはじまりです。以降、コミュニティガーデンは、多くの場所につくられ、シアトル市のプログラムとして管理されているものだけでも88ヶ所。今やシアトル市の都市景観のひとつとも言えるそうです。

さて、2014年に念願叶って私が訪れたいくつかのP-Patchを紹介します。

01:Picardo Farm P-Patch

1970年代に、学生や住民たちにより、シアトルで第1号のコミュニティガーデンが設立しました。古くから地元にあったピカルド農園のオーナーであるレニー・ピカルド氏が無償で農園の土地を提供し、つくられたものです。シアトルのコミュニティガーデン「P-Patch」は、第1号のコミュニティガーデンであるピカルド(Picardo)農園の名前に由来しているのです。

P-Patchコミュニティガーデン

コミュニティガーデンは区画されていて、それぞれ利用者が耕している。野菜やハーブ、花が植えられている。

私が訪問した日は、あいにくの雨で、ほとんど人がいませんでしたが、散策していると、農作業中のおばさんが、「トマト食べてみる?」と声をかけてくれました。ガーデン内の見た目は、区画が区切られているので、一見、市民農園のようです。市民農園は、利用者しか中に入れない場合もあり、あまりオープンな印象を持っていませんでしたが、明らかに部外者の私たちがうろついていても、訝しげな目を向けられず、フレンドリーにトマトをすすめられたことに少し驚きました。赤、黄のトマトをもらってその場で食べてみると、味が濃くて、美味しい!

P-Patch Community Gardening

作業中のおばさんが私たちにトマトをわけてくれた。部外者にもオープンでフレンドリーな様子に驚きつつ、感銘を受けた。

Picardo Farm P-Patch Pollinators garden

区画の周辺にはハチやトリなど受粉を手伝う生き物のための蜜源植物が植えられているPollinators gardenがある。

P-Patch Community Gardening; Seattle Department of Neighborhoods

Children’s garden

子ども向けにつくられたChildren’s gardenには、蔓性の植物でつくったティピー(移動用住居)

P-Patch Community Gardening; Seattle Department of Neighborhoods 箱庭のおばけカボチャ

箱庭は、想像力を無限にふくらませられるようなつくりである。

P-Patchの中の、Children’s garden。子供用ジョーロ

子ども用のジョーロ。子どもたちによって庭の管理ができる道具が備え付けてある。P-Patchの中に、Children’s gardenがつくられる事例が増えているそうだ。

02:Danny Woo International District Garden

ダウンタウンの南に、中国、日本、韓国、ベトナム、タイなどアジア各国が入り交じるインターナショナル地区があります。その丘の斜面に、ダニー・ウー・ガーデンがあります。1970年代初期のコミュニティ再生運動の中で、困難な生活をしていた高齢低所得者層の住民たちが活動的に動けるようにと、このガーデンのアイデアが生まれました。かつてはゴミだらけだった場所が整備され、アジア系移民の高齢者たちが世話をするようになりました。ここでは、1990年から始まったワシントン州立大学のデザイン&ビルドプロジェクトで学生と住民、教授がつくった設備が多数ありました。デザインをするだけではなく、地域の人たちと、実際に使われるものをつくることができるプログラムがとても羨ましく思いました。ここは、インターナショナル地区だけあって、ガーデンやデザインが、オリエンタルな雰囲気を醸し出していました。

ワシントン大学のデザイン&ビルドのプロジェクトのキッチン小屋P-Patch Community Gardening; Seattle Department of Neighborhoods

階段、ゲート、鶏小屋、納屋などは、ワシントン大学のデザイン&ビルドのプロジェクトでつくられてきたもの。この年のプロジェクトでは、キッチン小屋をつくったそう。(写真右)扉が上部に回転して開き、ひさしになる。中にはキッチンがあり、調理をして、庇の下で食事ができる。

インターナショナル地区の納屋(左)鶏小屋(右)

納屋(左)鶏小屋(右)。このほか、インターナショナル地区ならでは?!豚の丸焼き台もあった。一晩中焼くらしい。

03:Bradner Garden Park

眺めの良い地区にあるシアトル市所有の公園用地を活用したコミュニティガーデンです。1971年に市が購入してから、すぐに公園はつくられず、中学校に貸し出され、1987年に、その一部にラオスからの移民の人のためにガーデンスペースがつくられ、周辺の多様な地域の人々も彼らのガーデニングに参加していました。90年代に土地の価格が上がり、市は住宅地として売り出そうとしました。住民たちはイニシアチブを取り、公園が必要だと市を訴え、2年間の戦いの末、公園以外の用途の開発から守ることができ、公園建設の補助金を得てP-Patchがつくられました。

ワシントン大学のデザイン&ビルドのプロジェクトの東屋

東屋はワシントン大学のデザイン&ビルドのプロジェクトによるもの。

ピーパッチプロジェクトの農具やキッチンツール。風見鶏や貝殻で飾られている。

ガーデンのあちこちに、住民たちがつくった古い農具やキッチンツールを使ったアートワークがほどこされているのが楽しそう。

(左)無農薬で管理されていることを示すてんとう虫のマーク。(右)腐葉土

門についていたテントウムシマークは無農薬で管理されていることを示す。持続可能なガーデンづくりの実践としても活用されている。

P-patchの養蜂小屋。

高校生達のデザイン&ビルドによる養蜂小屋

04:UP Garden

シアトルの中心部にあるP-Patchはなんと立体駐車場の屋上につくられていました。この過密エリアに、空き地を見つけることは難しかったのですが、駐車場の屋上が、あまり使われていなかったため、その空間を、利用してP-Patchにしたそうです。年間30ドルで、市民に貸し出していて、主にダウンタウンのアパートメントに住む庭がない人たちが借りています。安い賃料のかわりに利用者たちは、掃除など施設の管理のボランティアに参加する必要があります。ボランティアワークは利用者同士のコミュニケーションにとっていい効果があり、コミュニティが育まれているそうです。

立体駐車場(写真左)の上にあるコミュニティガーデンとシアトルのシンボルタワー・スペースニードル

立体駐車場(写真左)の上にあるコミュニティガーデン。シアトルのシンボルタワー・スペースニードルが眺められる。

シアトルの巣箱

都会暮らしの鳥のために、巣箱があちこちに設置されていた。

車がプランターになっている

車がプランターになっていた。持続可能な未来へのメッセージが込められている。

以上、私が訪れたP-Patchの中から、いくつかをご紹介しました。あいにくのお天気で、実際にP-Patchを利用しているガーデナーにはほとんど会うことができませんでしたが、アートワークや植えられた植物は、それぞれが個性豊かで、使っている人たちが心からガーデニングを楽しんでいることが見てとれました。また、掲示板には、ポットラックパーティなどの案内があり、利用者たちが収穫物などを一緒に食べる機会があることもうかがえました。

それぞれの歴史を知ると、地域にある課題を解決し、ゆたかな都市生活のために、コミュニティガーデンを手に入れるという住民たちの情熱が獲得した場所であることがわかります。地区にある様々な問題を解決するために、コミュニティガーデンをつくるというのは、一見遠回りのように思えるかもしれません。植物を育てること、そして収穫物を分かち合い、ともに食べることは、人々のコミュニケーションの機会を増やします。それは、生活者自らの手で問題を解きほぐし、ゆたかな生活を育むことにつながるとても有効な方法なのではないでしょうか。

次回はこのP-Patchプロジェクトなどに影響を受けながら始めた、私自身の活動について紹介したいと思います。

(つづく)

参考資料・参考文献
P-Patch Community Gardening; Seattle Department of Neighborhoods
http://www.seattle.gov/neighborhoods/programs-and-services/P-Patch-community-gardening
ジェフ・ホー(2013)「都市空間に息づくコミュニティガーデン : アメリカ・シアトル」
林まゆみ編 ; 延藤安弘他著『実践!コミュニティデザイン : 地域を元気にする』彰国社
Jeffrey Hou, Julie Johnson, Laura J. Lawson(2009)
Greening Cities, Growing Communities: Learning from Seattle’s Urban Community Gardens, Landscape Architecture Foundation
Bradner Garden Park Website
http://www.bradnergardenspark.org/

江口亜維子

江口亜維子  えぐち・あいこ千葉大学大学院園芸学研究科博士後期課程在籍

1981年石川県小松市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、設計事務所で国内外の地域計画、建築企画設計に携わる。2012年より「カレーキャラバン」、2016年より「EDIBLE WAY食べられる道」開始。阿佐ヶ谷住宅(東京都杉並区)で暮らしたことがきっかけで、コモンスペースに関心を持つように。現在、エディブル・ランドスケープや共食活動を手がかりに、都市コモンズに関する研究を行う。