<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること

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5月:新緑の高原へ

5月はため息がでるほど美しい季節です。遠野の野山は日々の色彩の変化が見事、森の木々が芽吹きはじめ、新緑は日々、濃さを増していきます。花木は当初、ヤマザクラのピンクとハクモクレンの白が際立っていましたが、やがてヤマブキの黄色が林の際を飾り、それもつかの間、ヤマフジとキリの紫色がそちこちで目につくようになります。

遠野の馬

新緑の中の騎乗は、森の匂い、風のそよぎ、虫もまだ少なく、ほんとうに心地いい。

ツツドリの柔らかい声が森に響き渡ります。それから少しするとカッコウ、そしてホトトギスがやってきます。これらの鳥は、大きさは違うけれど素人目にはとてもよく似ている托卵する鳥で、律儀にも初鳴きの順番が毎年変わることはありません。南の国からアカショウビンも渡ってきてキョロロロローと印象的な声を響かせています。ため池ではモリアオガエルが鳴き始めました。エゾハルゼミの少し寂しげな音色が薄暗い森に響いています。

自宅のジンガ郎は一足早く荒川高原牧場へ。戻ってきたぜ、パラダイス!、と言ってるかどうかは定かではないが、頸のあげ方、激しい尾の振り方、隆起した筋肉のすべてが喜びを物語っている。

旧暦4月8日は新暦だと毎年ずれますが5月の前半から後半のどこかにあたっていて、クイーンズメドウと隣接する荒川駒形神社の例大祭です。いつもは人の訪れることの稀な、野生動物たちの気配ばかりが濃厚な閑静な神社も、この日ばかりは、氏子さんが集い、神楽やしし踊りの笛や太鼓の音色でにぎやかです。昔は近郷近在に限らずかなりの遠方からも愛馬を伴って泊りがけで大勢の人馬が訪れたといいます。その賑わいが去って長い年月がありましたが、20年近く前から、ふたたび馬とともに参列するようになりました。タカラクイーンから始まって、ジンガ郎、そしていまのハフリンガーたち。遠野の馬の飼育者たちとその愛馬も来るようになりました。今年はハフリンガーの子馬が生まれたのでしばらくぶりのニューフェイスの登場です。

仔馬

この春、11年ぶりにクイーンズメドウに子馬が生まれた。女の子。名前はエリザ。お母さんはエリ、お婆さんはエリアナ。ハフリンガーの女系は最初のアルファベットで繋いでいく。3世代がそろった。

例大祭が終わるとクイーンズメドウの棚田もいよいよ田植えが始まります。そして田植えが終わるといよいよ牝馬たちは荒川高原の牧場へ行くころです。

著者について

徳吉英一郎

徳吉英一郎とくよし・えいいちろう
1960年神奈川県生まれ。小学中学と放課後を開発著しい渋谷駅周辺の(当時まだ残っていた)原っぱや空き地や公園で過ごす。1996年妻と岩手県遠野市に移住。遠野ふるさと村開業、道の駅遠野風の丘開業業務に関わる。NPO法人遠野山里暮らしネットワーク立上げに参加。馬と暮らす現代版曲り家プロジェクト<クイーンズメドウ・カントリーハウス>にて、主に馬事・料理・宿泊施設運営等担当。妻と娘一人。自宅には馬一頭、犬一匹、猫一匹。

連載について

徳吉さんは、岩手県遠野市の早池峰山の南側、遠野盆地の北側にある<クイーンズメドウ・カントリーハウス>と自宅で、馬たちとともに暮らす生活を実践されています。この連載では、一ヶ月に一度、遠野からの季節のお便りとして、徳吉さんに馬たちとの暮らしぶりを伝えてもらいながら、自然との共生の実際を知る手がかりとしたいと思います。