色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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少女時代を懐かしむ緑
––ブランドショップの店先にて

今年、東京ではサクラの開花時期が早く、年度末の慌ただしい時期と重なってしまったため、ゆっくりお花見を楽しむことができませんでした。4月に入ると気温の高い日が続き、これまた慌てて冬物の片づけを始めなくてはならず……と、季節の変化とペースを合わせられない日々が続いています。
そんな中、用事のついでに緑を探しながら歩いていたら、いつ通っても目を惹かれるお店にやはり目が留まりました。ここはとても著名なモデルさんがオーナーを務めるブランドショップで、隅々まで筋の通った感性で整えられた衣類や雑貨などが扱われています。ご自身のライフスタイルが教科書として雑誌になるほどの人気を誇る方で、東京にしか直営店舗がないため、大学生の頃などは友人たちにこのお店の近くに住んでいることを随分羨ましがられたりもしました。

雅姫ハグ オー ワーHUG O WaR目黒区自由が丘2-14-9店舗外観

外観正面。左右のブルーは、それぞれ隣の建物の色です。


HUG O WaRハグオーワー店名ガーデンオーナメント

緑に見え隠れする、店名サイン。

自身は冒頭のように、例えば雑誌等で特集されるような“丁寧な暮らし”とは程遠い毎日を送っていますが、このお店の前を通る度に少女時代(恥ずかしながら、私にもそのような時期がほんの少しですがありました)の少し大人っぽいもの、あるいは外国のまちなみや暮らしに対する憧れた気持ちを思い出します。
それからだいぶ大人になり、改めて外観やディスプレイを詳しく眺めてみると「随分と気合が入っているなあ……」という印象も持ちます。さりげないように見えて、実は一つひとつ、とても丁寧に選び抜かれた小物や照明が植物と組み合わせられ、植物の剪定等にも気を遣われていることなども見えてきます。オーナーの「世界感」をよく知る人であれば尚更のこと、実空間でその美意識に触れることで、より一層心地よさやそれを毎日の暮らしの中で維持していくことの難しさ・辛さも同時に味わうことになるのではないか……などとも感じてしまいました。

ハグオーワーHUG O WaR自由が丘店舗

店舗前の広いスペースは、まさにオーナーの庭のようなイメージなのかも知れません。


子どもの頃の憧れをそのまま、大人になっても持ち続けたり実現したりできる人ももちろん大勢いらっしゃることと思いますが、一方では、いつの間にかそうした気持ちをどこかに置いてきてしまい、そのまま思い出さずにいることも多々あるのではないでしょうか。今回、歩き慣れたまちを散歩しながら、そのような記憶が店先の緑の設えにより思い起されることもあるのだな、という印象を持ちました。
ちなみに、大人になった自身の趣味とは重ならないものの、友人・知人にこのお店(・オーナー)のファンは多く、何かの際にお祝いの品を選ぶ機会が何度か続いています。大切な友人の好きな場所、ということも、慌ただしい日常の中で懐かしい記憶を辿る手がかりとなっています。

ハグオーワー壁の色

測色の様子。濁りのない、白。


ハグオーワークロスアンドクロス(Cloth&Cross)店舗入り口目黒区自由が丘2-14-11

歩いて5分ほどの場所にある、姉妹店。やはり緑が印象的です。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★★★
全体のカラフル感 ★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。


加藤幸枝

加藤幸枝  かとう・ゆきえ色彩計画家

1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。