工務店の魅力を伝える仕事

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はじめての本づくり

私は工務店で企画業務に携わっていますが、工務店という業態の中での企画の仕事は、専任ではなく、設計の仕事や現場の仕事と兼任でしている方が多いと思います。お客様が気にかけている情報を届けたり、新しい出来事など発信したり、会社にとって集客につながる広報活動をすることが企画の仕事です。この仕事は会社のブランドを作っているという一面もあります。兼任の作業でありながら重要な仕事がこの仕事です。お客様へ発信する方法が今はたくさんあるので、何をどんな風に作って伝えていくのかを決めること自体が会社のスタイルや、イメージにつながってくるので広報企画はとても重要です。どんなお客様が自分たちのお客様なのかを、注意深く観察し、どんな媒体だったら伝わるのか設定しなくてはならなかったりします。

その中で、私は「風びより」の本を作りました。その理由は、「風びより」の世界観を、まだこの場所に来たことがない人に伝えられる何かをつくろうと思ったからです。まだ、今のようにインターネットがスマホで気軽に検索できる時代でなかったこともありましたが、「人から手渡される」という信頼がくっついてくる本という媒体が一番いいなと思えたからです。オススメの本を紹介される時にオススメの理由を加えて伝えてくれます。
それに、本屋さんで本や雑誌を選ぶ時にも、素敵な写真だったり、気になる文字ロゴやキャッチコピーがあったりしたら、ついつい手にとって見ます。手にとった時にやわらかい手触りの紙だったりすると、何となく良いなぁと感じたりします。この感触にこだわることで、作り手のこだわりが伝わるように思うので、手触り(触感)を、住宅をつくるときの思いと重ねて、共通の軸とし制作を進めていきます。

1作目は、『風の窓』という小さなイメージ写真集を作りました。地元の写真館のカメラマンさんではなく、自分のイメージに近い写真を撮ってくれる、他県のカメラマンさんに撮影してもらい作り始めました。写真は映像だけでなく空気や時間や温度までも伝わります。カメラマンの力量もありますが、イメージを伝える大切な要素なのです。センスも共感出来るものをもっている人でないと駄目なのです。ただ、写真だけでは伝わらないこともあるので、コラムをつけて作成しました。配りやすい小さなバイブルサイズの雑誌です。それを店頭に置いて販売したり、モデルハウスに置いてもらって、資料請求の時につけたりして送りました。
しかし、残念ながらこの1冊めは見た目は良かったのですが、社内の反応がイマイチで、「世界観じゃ飯は食えない」と。もっと営業につながる内容にしてほしいという要望の声があがりました。

それならばと、2作目は少しサイズを大きくして、建築のことをテーマにお客様の取材をして、新築のお客様と、リフォームのお客様、モノづくりについて記述した雑誌にしてみました。内容も充実してきたこともあり、お客様やファンからは好評だったのですが、社内からは「この雑誌を読んで住宅依頼した人はどれくらいいるのか」と費用対効果を問われました。風の森全店舗合わせて20店舗で配布し、資料請求で配布しても、配布には限界がありました。

長崎浜松建設森と家と暮らし。

この経験から、次は書店で配布できる雑誌にしようと、社長へ嘆願し一大決心。予算をとってもらい、『森と家と暮らし。』の制作をしました。地元で情報誌を制作しているプレスさんと共同で制作をすることにしたのです。編集や内容の方向性、軸は、今まで制作してきたことが役に立ちました。世界観を伝えることは、会社のイメージをつくりブランドになるということ。それを、本を作り続けることで、徐々に社長の理解も得られたのだと思います。「この本素敵ですね」が「この本をつくっている会社が素敵ですね」になり「会社が素敵ですね」と言われることがあります。ブランドをつくるために必用なツールだったのです。

工務店という建設会社が、素敵に変わる。荒々しい業界、男性のイメージから、優しい暮らしをイメージできる工務店として伝わる。そのことで足を運びやすくなったり、馴染みやすくなったりということにつながっています。本を作ることが会社のブランドイメージを作ることにつながりました。

著者について

村上比子

村上比子むらかみ・ともこ
「風の森」「風びより」の総括マネージャー

九州造形短期大学(現、九州産業大学造形短期大学部)卒業後、大手設計事務所勤務。企画コンペ専門の実務を経験し、工務店、コンサルティグ会社を経て、現在、株式会社浜松建設の企画運営マネージャーとして広報企画を担当。「風の森」「風びより」の運営ブランディングを行う。「大工の手づくり家具・モクモク」のデザイナーでもあり、「風びより」「風の森」で使われている家具やデザインをモクモクオリジナル商品として提供している。

連載について

工務店には広報が重要とわかりながらも、未だモデルケースや方法論などは明確にはない状況です。広報担当者は「孤独」に追い込まれていると『新建ハウジング vol.770』は伝えています。長崎の工務店で広報企画を担当されている村上さんのお仕事は、まさにこのテーマに対する一つのお手本のようでもあります。毎日長崎県内を縦横無尽に移動し、活躍されている村上さんが、これまでどのように広報の仕事を担当されてきたのか、教えていただきます。