ぐるり雑考

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働き方が変わっても

西村佳哲

〝働き方研究家〟という肩書きを使い始めたのは32歳の頃。ある雑誌の連載で、プロフィール文を考えながらつくった。
参考にしたのは「料理研究家」だ。資格じゃない、けど内容はわかりやすく、日々誰もがしている「料理」という世界に一歩踏み込んでみますね、という姿勢が表現できている。○○○研究家という肩書きの持ち方はとてもいいなと思った。

しかし最近あまり使わなくなったのは、働き方より、仕事のあり方のほうに関心が移っているからだろう。

30代の自分は、以前勤めた大企業で体験した働き方への違和感が大きく残っていて、もっとこんなふうに働く方が健全だし、創造的で、いい成果も出せるんじゃない? といったことを始終考えていた。
会議の場のつくり方はどうするといいのか? 情報共有のよい仕組みは? 偶発的なコミュニケーションが生れやすいレイアウトは? などなど。

Bürolandschaft/Großraumbüro

これは20代後半の頃に見て興奮した図。1960年代にドイツのコンサルティング会社・クイックボナーが提唱した「オフィスランドスケープ」の一例で、チーム間のコミュニケーション分析に基づく動線検討が、きわめて有機的なフロアプランに結実している。
その50年後の日本のオフィスはと言うと、今でも高度成長期の「対向島型レイアウト」が基本形。「あれは毎年新人が入って来る、成長期の組織に適した形で、いまの社会状況ではむしろ害の方が大きいんじゃないか……」と思う。

それでも少しづつ進化してはいるし、会議の進め方の工夫も重ねられてはいる。働き方をめぐる工夫は空間に限らず、フレックス制の導入や、副業規定の見直し、育児休暇の取り方といった制度設計にも及んでいて、その一つひとつは結構なことだ。

けど、やっぱり働き方の改革では救われないんじゃないかな。

どんなに働きやすくなって、どんなに会議がクリエイティブになっても、やっている〝仕事〟そのものが、「本当はこれ必要ないよな」とか「やればやるほどどこかにシワ寄せがいく」「未来にツケを回しているだけ」と思えてしまうような、つまりあまり意味が感じられないものだったら、自分の時間(いのち)を投じる理由がわからなってゆくと思うので。

昨今の働き方改革周辺には、働かせる側の言説が多い。人材不足や労働市場の流動化といった課題はわかるけど、本来そっち側の人間が考え、かつ実際にやらないといけないのは〝いい仕事〟をつくることだ。給与や就労条件でなく、新鮮な価値や意義をたっぷり含んでいるという点において〝いい〟仕事を、あらためて生み出してゆくこと。

この社会が「よく働けるけど、精神的には空虚」な方向に整ってしまったら、つまらないと思うんですよ。


西村佳哲  にしむら・よしあきプランニング・ディレクター、働き方研究家

1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。多摩美術大学、京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。