ぐるり雑考

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同じ事があたり前のように

西村佳哲

こうして原稿を書いている場合じゃない……と思うのは、春の訪れがひしひしと感じられるからですね。

二日前の雨の晩、車道を跳ねて横切るカエルの姿を見た。やばい……ヘビも目を覚ましてしまう。○○が目を覚ますと、家のまわりの茂みの手入れや、壊れかけている小さな納屋の片付けを、無防備には出来なくなる。この人生で、自分がこんなに○○を気にして生きるようになるとは思わなかった。○○はまだいいんだけど、○○○がね。もう書くのも嫌。

子ども向けのキャンプのスタッフが聞かせてくれた話に、一足先にキャンプサイトに入ってまず大きめの穴を掘るんだわ、というのがある。そこに持ってきた髪の毛(美容室等で入手)をドサッと入れて、火をつけて燃やすと、匂いに惹かれて、あたりの○○がわらわらと出て来て穴に落ちる。そのまま燃やして、埋めて、そして子どもたちの到着を待つのだとか。

ほんまかいな? と思っていたら、○○○を生け捕って売っている人たちの猟法として同じ話を聞いた。でも、「わらわら」が怖くて試せずにいます。

春の訪れは草木にも。ここのところずっと枝先を赤くしてやる気満々だった。あれはたしか寒さで凍らないように、枝先に糖分を集めて赤くなっているんじゃなかったか。
近くに寄るとフサフサした冬芽から芽が出はじめている。それらは可愛い。けど、じきに草や葉の茂りに追われる季節が始まる。夏。植物は容赦なく成長する。その少し前には、スズメバチの巣づくりを警戒して過ごす時期がある。春から初夏。彼らも我が物顔です。

山里の暮らしは、水や空気が美味しいし、月明かりに照らされる夜の景色がまた格別だったりして、僕は好きだ。
けど、1年を通じて常に周囲の自然の”圧”が高い。草木や○○が静まった冬の季節になると、こんどは寒さが。今年は町のあちこちで水道管が凍った週があり、お風呂に入れない人たちに温泉が無料開放されていたっけ。つい数週間前のことです。

この圧の移ろいには季節があり年周期がある。日々いろいろと大変ではあるけれど、同じ事があたり前のようにくり返されてゆくこと、そのものが掛け替えのない安らぎなんだよなと思う。日常という基盤。
○○については安らげないけど、まあ目を覚ましてください。一緒に生きてゆきましょう。

ぐるり雑考

著者について

西村佳哲

西村佳哲にしむら・よしあき
プランニング・ディレクター、働き方研究家
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。