「ていねいな暮らし」カタログ

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登場人物の体験に自分を重ねる——『Lingkaran』

前回は、「ましかく写真」に注目しましたが、今回はインドネシア語で「輪」という意味を持つ『Lingkaran』を見てみましょう。『Lingkaran』は、『ku:nel』に続き2003年4月に創刊した雑誌で、暮らし系雑誌を語る時には欠かせないものとなっています。2009年に出された40号で休刊となりましたが、今でも多くのファンを持つ雑誌と言っても過言ではないと思います。

数ある暮らし系雑誌の中でも『Lingkaran』は、ミュージシャンやモデルといった、テレビにも頻繁に登場する著名人が出てくることが特徴で、この登場人物たちが本誌のテーマである「心とカラダにやさしい生活」を体験する記事で構成されています。例えば、創刊号ではCharaとケンタロウが表紙を飾り、オーガニック食品の買い物から朝ごはんづくりまでを行います。2号では、ピエール瀧とYOUが益子に行って陶芸を体験し、My Little LoverのAKKOが京都の仕立て屋で自身の体にあったシャツを作るなど、生活に関わるものづくりや時間をかけて生活をつくっていくことを著名人が体験して伝えるというやり方をとっています。(ケンタロウは食のプロでありますが)

リンカラン

「人の数だけ暮らしがあって / 暮らしのぶんだけストーリーがある」1というのは、暮らし系雑誌の理念の基本です。『Lingkaran』でもまた、東京から離れて暮らす人たちの実状や、スローに暮らすための秘訣についてページが割かれています。なかでも、『Lingkaran』の特徴的な点としては、誌面上で新しい暮らし体験をする人たちが、読者である私たちとテレビを通じて「身近」であることではないでしょうか。何よりも、テレビでおなじみの著名人たちが、時に不器用に、時に素人のような感覚で「やさしい生活」を体験し、彼らの声でもってそれらを紹介することによって、暮らし系雑誌業界の有名人ではなく、誰もが知っているような人たちが食材や被服や代替療法といったことに目を向けることによって、「この人たちも私たちと同じように暮らしを発見しながら毎日を過ごしているのかもしれない」と思わせてくれることが、本誌の人気を支えていたのではないでしょうか。このことは、暮らし系雑誌の読者の裾野を広げるきっかけにもなったと思います。

そして、もう一つ忘れてはならないのが本誌のテーマである「心とカラダ」についてです。この点については、次回に持ち越したいと思います。

(1)『Lingkaran』vol.2 2003.8月号 特集記事のリード文章。

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。