「ていねいな暮らし」カタログ

8

カメラを持ったら何をする?
——『カメラ日和』

今回は、2004年に創刊した『カメラ日和』を取り上げます。本誌は、「自分らしい個性的な住まい」1を提唱する雑誌『LiVES』の増刊として刊行され、ライターの能町みね子氏は「女性向けカメラ誌としては草分け的存在」2とも表現しています。『カメラ日和』は、赤ちゃんや旅、猫といったテーマが毎号決められていて、こういった対象物をどのようにきれいに撮るかという技術的かつ実践的な情報にあふれていることが特徴です。

カメラ日和-手描き表紙

例えば、本誌が創刊した頃はまだiPhoneやスマートフォンのない時代ですので、ガラケーやデジタルカメラの全盛期でありました。創刊号の冒頭では、「カメラを持っているだけで/いつもの風景もちょっぴり立派に見える」3ともあるように、カメラが私たちの日常に入り込んできたちょうどその時だったようです。自分で写真を現像してフォトブックやウェブログを作る(本誌には「ブログとは何か」の説明までありますし、写真ソフトのCD-Romまで付いています!)といったDIYを提案します。そのような背景をふまえながら本誌をめくると、たった十数年前のカメラ事情が非常に新鮮なものとして見えてきます。

『カメラ日和』には、写真家をはじめとするものづくりに関わる人たちの普段撮りの様子が、毎号たくさん紹介されています。道端の雑草やホーロー看板といったものが、カメラを通して撮るべきものとして「発見」され、各自のスクラップ帳に収められていく。読者もそれをかけがえのない「日常」と認識し、自身の撮影に活かしていく。カメラは自分自身の「ファインダー」でもありますから、個人的な記憶や制作とも深く結びついていきます。写真を撮って友達とシェアするということが今ほど簡単にできない時代の話ですから、これらの一つ一つの行為が貴重なものとなり、「日々営むシンプルな暮らしの、透き通るような物語」4へとつながるきっかけとなるというわけです。

スマートフォンを手にする前には、私たちはどんな写真(日常)を撮っていたでしょうか。願わくは、当時の写真と見比べてみたいものです。

(1)「LiVESについて」https://www.livesjapan.com/about/ 2017年12月18日参照。
(2)能町みね子(2013)『雑誌の品格』文化出版局、p.62
(3)『カメラ日和』vol.1 2005/winter p.3
(4)『カメラ日和』vol.2 2005/spring p.28



阿部純  あべ・じゅん

1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。