「ていねいな暮らし」カタログ

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「本当にいいデザイン」について
—『d long life design』

これから2回にわたって、デザイナーのナガオカケンメイ氏が立ち上げた生活提案型プロジェクトであるD&DEPARTMENT PROJECT(以下、D&Dとします)を取り上げます。D&Dは、前回紹介した『クウネル』が創刊する少し前の2000年にスタートしました。「ロングライフデザイン」をコンセプトに掲げ、商品の誕生から20年以上経った息の長い生活品を販売し、広めることを目的としています1。ナガオカ氏は、自身のブログ記事を元にした書籍やD&Dの思いを伝える雑誌を複数出版しており、ここで問われているのが「本当にいいデザイン」についてです2

D&Dは、現在『d design travel』という各県をテーマとした雑誌を発行していますが、今回取り上げたいのは、この雑誌の前身となる『d long life design』です。本誌は2005年に刊行され、A5サイズ、48ページの中綴じ構成をとっています3。前者が「ロングライフデザイン」の思考の先に各地の地場産ものの価値に気づき、それらを観光ガイド的に提案する雑誌であるとしたら、後者はその「ロングライフデザイン」そのものについて問うための冊子でした。

ディ・ロングライフデザイン

『d long life design』。現在でもD&DEPARTMENTのネットショップにて販売されている。

例えば、毎号の巻頭に登場するのは、「○○さん(○○にはデザイナーの名前が入ります)、「ロングライフデザイン」ってなんですか?」という問いです。ナガオカ氏は、自身の提示した「ロングライフデザイン」という言葉を、他のデザイナーたちがどのように考えるのかを集めます。
「(…)意識から消えていくデザインこそロングライフデザインなのだと思います。」(佐藤卓氏 vol.12)
「ユーザーが新しい用途を発見してくれるということです。」(西山浩平氏 vol.17)

このようなデザイナーたちの言葉のほかに、ナガオカ氏が「ロングライフデザイン」であると思うもの(その多くはブランドですが)を立ち上げた人たちへのインタビュー記事が掲載されるなど、「ロングライフデザイン」というコンセプトの器を埋めるかのように、「ロングライフデザイン」っぽい何かの周りを回り続ける、そんな冊子になっています。「本当にいいデザイン」は一体どこにあるのか。次回は、この冊子のなかで「ロングライフデザイン」なものがどのように紹介されているかを見ていきましょう。

(1)「20年以上」と書きましたが、過去には「30年」「40年」と書いてある本人のブログ記事もあります。
(2)ナガオカケンメイ「あなたは偽物デザイナーではないか」(『d long life design』vol.10、2005、29)
(3)ナガオカ氏自身は、この冊子を「47ページの冊子」とも言っていて、こういったところにも47都道府県へのこだわりがみえます。参考:ナガオカケンメイ(2009)『ナガオカケンメイとニッポン』創美社発行、集英社発売、p.356



阿部純  あべ・じゅん

1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。