色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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わずかな合間の緑
––レザーグッズ店の店先にて

建築外装に使用される素材の中では、特にタイルや煉瓦が好きです。まちを歩いていて、風合いのある焼き物を見つけると、形状やパターン、色むらの具合などをまじまじと観察してしまいます。釉薬(うわぐすり)を使った艶と色気のあるタイルは、日本の建材としては昭和初期に流行した時期があります。戦後コンクリート造の建物が建設されるようになり、その外壁の仕上げとして広く活躍しました。深い飴色の釉薬タイルは、今でも下町を歩くと戸建住宅の玄関周りなどで見かけることができます。多様な色幅は工業化・規格化された現代の製品にはない、工芸品のような存在感や個性があり、外壁のごく一部分にでもこうした色気のある素材が使われていると、まちなみがぐっと表情豊かに・華やかになると感じます。

そうしたわけで、このお店は通る度に外観のタイルが気になっていたのですが、改めて店先に目を向けると、僅かの隙間にちょっとした緑があることに気が付きました。これまで地面に馴染み過ぎていて気が付かなかったのですが、高さ70㎝くらいの鉢植えの脇に長方形の物体が置かれており、さらによく見ると角材を利用したプランターでした。奥行きわずか15㎝ほど、ところどころくりぬかれた部分に苔が生えています。ころころっとした苔玉(山?)が並んでいる様は、決して華やかではないものの、小さな緑があることが何だか楽しく感じられました。

このお店は正面が大きく開かれていて、ガラス面から店内の様子や商品のディスプレイを眺めることができます。店名のsotは「そっと置く」などのそっと、に由来しているのだそうです。緑もどうだ! という感じではなく、ちょっとした合間に「そっと」そこに置かれていることが、日々使い続けることで徐々に味わいを増す革製品の特長や存在感を表わしているのかな、とも感じました。

ふと足元を見ると、そこにひっそりとある緑。こういう何気ない・さりげない存在も何とも言えない味わいがあって、まちを歩きながら見つける・見つけ出す楽しさがあるなあ、と感じます。もてなす側の気合いの入った店先の演出にも心を動かされますが、普段は気が付かないくらいの存在に気付いた時の喜びもまた、自身の心を静かに揺らす出来事です。

ウエルカム感   ★★★
ボリューム感   ★
全体のカラフル感 ★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。


加藤幸枝

加藤幸枝  かとう・ゆきえ色彩計画家

1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。