ぐるり雑考

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どこまでが自分?

20年ほど前「オーロラ」の科学教材をつくる仕事があった。小高学年向け。で、まず自分がわからないので調べる。僕は小中高と勉強しなかったくちなのだけど、大人になってから仕事の中で勉強している。その歳になって初めて知ることが多く、常に面白い。

オーロラ

撮影:たぶん坂本さん(2002年、カナダにて)

このとき興奮したのは、まず「オーロラは大きな光の輪である」ということだった。えっ。私たちは地上から全体を見ることはできなくて(地平線に遮られるから)、その一部を光のカーテンとして見上げている。
しかもですよ。この光輪が北極側にあらわれるとき、同じく南極側にも大きな輪があらわれて、かつ面対称で相似的に動いているんだって。えーっ!(ここ、驚くところです)

オーロラの源は太陽。太陽は全方位に粒子エネルギーを吹き出している。そこから1億4,960 万km離れたところに地球がある。その地球には磁極があり、N極(北極側)とS極(南極側)を結ぶ曲線で描かれた、タマネギを半分に切った断面のような模式図に見憶えがあると思う。

この磁力線の円弧は地球から離れても、離れても離れても、弱まってもまだNとSでつながっている。いっぽう太陽にも磁力線があって、ふたつの天体の磁力線は、それぞれから遠く離れた中間のどこでプッと繫がる。
つながったその磁力線に沿って、太陽から飛び出した粒子(電子やイオン)がザアッ!と地球に流れ込んでくる。NとSに、同時に。

しかし地球には大気圏があるので、粒子は地上に到達する前に、窒素や酸素とぶつかってエネルギーを散らす。そのとき生じる大量の光子を、私たちは「オーロラ」として見上げているわけです。

この話を思い出すと、「どこまでが地球なんだろう?」という問いが浮かんでくる。
いま立っている地面、足元の球体を地球だと考えている人が多いと思う。でも地上100kmの上空は? オーロラの下端はだいたいそれくらい。そのさらに上は? どこまでが地球なんだろう。大気圏も欠かせない地球の構成要素だし、磁力線はさらにその外へ伸びて、しまいには太陽と結ばれそれがオーロラにもなって…この自然現象は遙か彼方につながっている。で、どこまでがなんなのか。

この境目のわからなさを考えるのは楽しい。たとえば、「どこまでが自分なんだろう?」という問いも。このツメの先まで、ではないと思うんです。

著者について

西村佳哲

西村佳哲にしむら・よしあき
プランニング・ディレクター、働き方研究家
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。