色彩のフィールドワーク:もてなす緑

5

季節ならではの彩り
––農家の庭先にて

今回は、お店ではありませんが。色彩調査の際、あまりにたくさん柿の木と柿を干す風景に出逢いましたので、この季節ならではの彩りについて取り上げてみたいと思います。

この夏から岡山県勝田郡奈義町というところへ、1~2か月に1度のペースで通っています。民家や公共施設などの外装色を測る他、地域の自然景観色の推移を一年間、記録することが目的です。測色結果から地域の特徴や傾向、時には時代の変遷が見えてくることもあり、各地での色彩調査は見た目が地味ながらも、楽しく興味の尽きないリサーチです。

奈義町現代美術館

奈義町の中心部には建築家・磯崎新氏が設計した現代美術館があり、のどかな農村と特徴ある形態の対比は、今までにみたことのない風景が拡がっています。

現在も農業を営む方が多い奈義町には、新しい建材を使用した戸建住宅もありますが、最も多いのは黒瓦の屋根に白漆喰の壁という、築50〜80年程度の木造の民家です。民家の玄関先には必ずと言っていいほど柿の木があり、9月に調査をした時には気が付きませんでしたが、10月の末に再訪した際はがらりと雰囲気が変わっていて、色づいた柿の実が連なる様子に思わず足を止め、鮮やかな橙色を眺めながら調査を行いました。

柿の木

艶やかな柿の実は、離れたところからも人目を誘います。おおらかな樹形が風景に動きをもたらし、一枚の絵のように感じられました。

農村や漁村で多く目にする柿の木は、食用を目的に普及したのだと思っていたのですが、「柿渋」を採集する目的もあったのだとか。柿渋は木壁や建具の腐食を防ぐため、また防水のための塗料などとして、伝統的に使用されてきた天然の塗料・染料です。
柿の木を植えてやがて実がなれば、さまざまな使い道があることを先人たちに学び、地域の方々はごく自然に受け継がれてきたのでしょう。奈義町では窓先に柿を吊るす光景も沢山見られ、まるで鮮やかのれんを吊るしたようなその様を眺めていると、干し柿のねっとりとした食感や甘みが口の中に広がってくるようです(…物干しを物欲しそうに眺めている、というダジャレを思いつきました)。

測色風景

測色の様子。自然景観色の調査には、色数の多い大型の色見本帳が欠かせません。

ところで柿の色は、YR(イエローレッド)・黄赤系です。黄赤系は自然界の基調色の中心色であり、土や木の幹、住宅の建材に使用される木材がもつ色相(色合い)です。色付いた柿の実は大変鮮やかなのですが、周辺にあるものとは「色相が揃っている」ため、色彩的な調和が形成されていると表現することができます。樹木の緑があり、空の青があり、自然界の基調色(黄赤)があるという3大要素は、国や地域ごとの差異はあるものの概ね共通の要素であり、年齢や経験を問わず見慣れた(身近な)配色である、と言えるでしょう。

季節の変化はそれぞれに魅力がありますが、秋時期にさまざまな実が色づき、木々の葉が紅葉する様は、赤・黄赤・黄へと変化する快調の心地良さもあいまって、自然界の色彩構造がより印象的に感じることができるのではないでしょうか。

ウエルカム感   ★★
ボリューム感   ★★★
全体のカラフル感 ★★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。