まちづくりで住宅を選ぶ

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豊かな生活は、良い住宅+優れた街で実現する

AgitÁgueda

どんなに素晴らしい家に住んでいたとしても、目の前に交通量が多い大通りがあったら嫌なものです。排気ガスや騒音の問題もありますが、何より子どもが事故に巻き込まれたら大変です。それでは、大通りでなければいいのでしょうか。問題はそう簡単ではありません。狭い道路でスピードを出した車が走っているほど危険なことはありません。出来れば自動車が入ってこないか、そこに住んでいる人だけしか入れないような道路だったりするといいかもしれません。あと、自転車の専用道路などがあっても便利です。
最近では自動車で移動することを前提として、都市がつくられている場合が多いですが、自動車で移動したくない時もあります。例えば、仕事仲間や学生時代の友人と飲み会に行くときなどは、家のそばに鉄道の駅やバス停があると有り難いです。しかも、10分間隔ぐらいで走ってくれていればなおさらです。

服部圭郎まちづくりで住宅を選ぶ

東京都港区のお祭り。港区の再開発地区には多くの新住民が住んでいるが、このようなイベントをコミュニティ(この場合は商店街)が実施することで、人々のネットワークがつくられていき、生活も豊かになっていく。

また、自分の家のそばにしっかりとしたコミュニティがあったりすると、日常にスパイスを与えてくれます。例えば、子どものためにハロウィーンのお祭りをやってくれる商店街や地元コミュニティのグループがあると、子ども達は楽しいでしょう。そして、地震などが起きた時、頼りになるのは地元の人達のネットワークです。
このような生活の価値は、住宅がどんなに理想的であっても提供されません。それは、住宅が建っている周辺の街が提供してくれるものなのです。したがって、豊かな生活を実現させたければ、住宅だけでなく街にも目を向けなくてはいけないのです。それにも関わらず、多くの人は住宅のスペックばかりに注目して、その周囲の環境である街には目を向けません。しかし、それでは豊かな生活を送ることはなかなか難しいと思います。

このエッセイは、あなたが豊かな生活を送るための優れた街を見極めるうえでのガイドブックとして使えるような内容のものにしたいと考えています。それによって、住まいを選ぶ際に、住宅だけではなく街を選ぶうえでのヒントにしてくれればと考えています。

著者について

服部圭郎

服部圭郎はっとり・けいろう
龍谷大学政策学部教授
1963年東京都生まれ。東京大学工学部卒業、カリフォルニア大学環境デザイン学部で修士号取得。某民間シンクタンク勤務、明治学院大学経済学部教授を経て、現職。 専門は都市計画、地域研究、コミュニティ・デザイン、フィールドスタディ。 主な著書に『若者のためのまちづくり』『人間都市クリチバ』『衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり』『ドイツ・縮小時代の都市デザイン』など。技術士(都市・地方計画)、博士(総合政策学)。