色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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まちに与えるリズミカルな変化
––洋品店の店先にて

店先のわずかなスペースの工夫により「入りたくなる」雰囲気がなんともうまくつくられているな、と感心してしまうことが多くあります。ここは緩やかな坂道の途中にあって、坂道を登っていくと左手前方、デッキ越しに緑が見えてきます。勢い良く伸びているシュッとした鋭い葉と、陽に焼けたデッキの木材との対比が印象的です。

Life's coffee stand

カラフルに色を使っている訳ではありませんが、さまざまな緑により賑わいを感じます。

店先に段差があると少し敷居が高く感じますし、場合によっては上がるのが少し面倒に思える場合もありますが、マイナスの要素を解消するということは思ってもみなかった空間の使い方の発見や、いつもとは異なる目線で景色を捉えることにもつながります。普段は足元で見ている鉢植えの植物が、ちょっと高いところからまちや私たちを「見ている」と考えてみると、高さの変化がもたらすのはまちを楽しく歩くためのリズムだったり、アクセントだったり。音楽と同じく、高低や明暗の変化がまちに彩りを与えているのだと感じます。

さまざまな鉢がありますが、緑が全体の統一感をつくっていて、まとまりがあります。

こうして店先の緑に注目して歩いていると、随分とまちには緑があるものだなと思います。行政が整備・管理をする立派な並木も街並みの連続性や通りの個性をつくる重要な要素であり、もちろん素晴らしいのですが、普段歩くスピードで見ている近景や近接景においては、私たちが視覚以上に嗅覚や触覚などが刺激されるような、より多様な変化を求めているのではないかと考えています。
普段、私は街並みの色彩という観点から誰が・何をどうすれば美しく・調和のある「景観」を守り・育てていくことができるのかという、いささかややこしい課題に係わっていますが、どうにも難しいのはどの程度のコントロールが必要なのかという、その塩梅です。美しさの概念は年齢や経験によりさまざまですし、調和については理論があるものの、変化する社会の中ではあまりに繊細で、広く共有可能で普遍的な理論が構築できるまでにはもう少し時間がかかりそうな気がしています。
その点、緑がもっている季節の変化や連続性につながる(つながってしまう)おおらかさには、大きな希望を感じます。大きさやかたち、種類がさまざまでも「あくまで緑」であることが、まちのさまざまな要素を「程よい塩梅でつないでいく」役割や効果を持っているのではないか、と考えています。

測色

測色の様子。コンクリートの素地に色を塗ったような、やや透明感のある塗装でした。Y系のグレーは緑との相性が良い色相のひとつです。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★★
全体のカラフル感 ★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。