<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること

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11月:馬たちが帰ってくる

馬と心を通わすということ

一緒に暮らしている馬たちと、心が通うのは何にも代えがたいものです。馬と暮らしている多くの人たちは、その時間が大好きで、日々の世話を欠かさず一緒に暮らすのかもしれません。
ところで、馬と心を通わそうとするとき、案外邪魔になるのが「人間らしさ」のある部分かもしれない、と次第に思うようになりました。
「人間らしさ」とは何かというと、具体的には、傾向として人は、目的を持ち、計画をし、何かを達成することに「意義」を感じるところがあるという部分です。
けれども馬はそのようではありません。進化史から見れば、馬は草原などで暮らしてきた被捕食動物なので、大型のネコ科動物などの“目的を持った”、“直線的な”接近に対しては、本能的に逃げる傾向があるということです。人もどちらかというと捕食動物=狩猟者ですから、アプローチの仕方によっては馬にそのような感覚を抱かせてしまう場合があります。

あと、もう一つ。こちらの思うように動かなかったりリアクションしなかったりしたとしても、決して怒らないこと苛立たないことも大事です。怒りのような感情は押し殺せたとしても、敏感な彼らに一瞬で察知され、心を閉ざされます。馬房のような逃げる空間があまりない場合、馬はすぐさま筋肉を隆起させ、いつでも反撃できるような態勢になります。
ですから馬たちといい時間を過ごしたいと思うときは、体をリラックスさせて、呼吸はゆっくり、平穏な心持ちを保って、というのが、人の側の体と心の準備になります。禅などの瞑想にも似ているかもしれません。馬とともにいようとすると、馬とより深く関係を取り結ぼうとすると、自分の心や性格の癖や弱みのようなものを思い知らされることが日常で多々あります。
そんなことを僕はずいぶん長い時間をかけて彼らから教わってきています。何かで読んだ話ですが、カウボーイにこんなことわざがあるそうです。

There is an old saying that in order to control horses we must control ourselves.

意訳すると「馬をコントロールしたかったらまず自分自身のコントロールを学ぶことだ」でしょうか。まったくその通りだと思います。

ではまた12月に。

著者について

徳吉英一郎

徳吉英一郎とくよし・えいいちろう
1960年神奈川県生まれ。小学中学と放課後を開発著しい渋谷駅周辺の(当時まだ残っていた)原っぱや空き地や公園で過ごす。1996年妻と岩手県遠野市に移住。遠野ふるさと村開業、道の駅遠野風の丘開業業務に関わる。NPO法人遠野山里暮らしネットワーク立上げに参加。馬と暮らす現代版曲り家プロジェクト<クイーンズメドウ・カントリーハウス>にて、主に馬事・料理・宿泊施設運営等担当。妻と娘一人。自宅には馬一頭、犬一匹、猫一匹。

連載について

徳吉さんは、岩手県遠野市の早池峰山の南側、遠野盆地の北側にある<クイーンズメドウ・カントリーハウス>と自宅で、馬たちとともに暮らす生活を実践されています。この連載では、一ヶ月に一度、遠野からの季節のお便りとして、徳吉さんに馬たちとの暮らしぶりを伝えてもらいながら、自然との共生の実際を知る手がかりとしたいと思います。