町の工務店探訪福岡・悠山想

町の工務店探訪④

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.1  【事例紹介】築100年の古民家再生
福岡・悠山想

福岡県朝倉市にある悠山想は、伝統的構法の家づくりを得意とする工務店だ。宮本繁雄さんが1990年に設立。建築士4名、大工6名が在籍。設計事務所と工房を擁し、現場監督や営業は置かずに建築士が設計と工事管理、材料の調達を行う。設計から施工まで家づくりを一気通貫で手がける会社だ。

特に力を入れているのが「民家再生」。事務所から車で約15分の距離にある、築100年の民家を再生し新築の棟とつなげた「恵比須町の家」を見せてもらった。

 

ハウスメーカーが匙を投げた建物を改修

町の工務店探訪福岡・悠山想

上写真/「恵比須町の家」の玄関まわり。地元産の土を使った土壁、ヒノキ(左側)とスギの床。地域の材料と、職人の手仕事の集積。
表題写真/「恵比須町の家」の、築100年の母屋と新築棟(奥)のつながり。

「恵比須町の家」は、大正6年(1917年)に建てられた約40坪の母屋を改修し、約24坪の新築の住居棟とつなげた住宅だ。小学校校長を60歳で退職し、現在は大学講師を務めるご主人と、専業主婦の奥様が暮らしている。

母屋は、朝倉地方の特産の櫨蝋(はぜろう)*1や米の卸売で財をなしたご主人の曽祖父が、隠居のために建てた建物に由来する。その後、後継者がなく商売は畳んだものの、建物はご主人の祖父、父へと受け継がれてきた。

夫妻は当初、2つのハウスメーカーに改修を相談。だが築100年の母屋は残せない、建て替えでないと無理だと断られてしまう。その頃たまたま図書館で見つけた古民家再生の本で悠山想を知り、可能性にかけてみようと相談した。

「問題なく再生できると感じました。もっと古い江戸時代生まれの建物も経験しているし、ひどく傾いている建物を再生させたこともありますから」と悠山想代表、宮本繁雄さんは振り返る。頼もしいパートナーが見つかった。

家づくりは、職人の手仕事の集積

町の工務店探訪福岡・悠山想

「恵比須町の家」住居棟のダイニングとキッチン。ダイニングテーブルからちょうど、庭を訪れる鳥たちが見えるという。

 

2016年6月、工事は新築の住居棟からはじまった。柱梁はすべて天然乾燥*2にかけた国産の杉。それだけでも珍しいのだが、さらに驚かされるのは、悠山想では構造材をすべて自社の大工が手刻み*3で加工、プレカット*4には出さないということ。手間を惜しまない家づくりがなされている。

新築棟が完成した後、2017年1月に母屋の工事がはじまった。まずは基礎を改修。長年悩まされてきた湿気対策として、床下にあった井戸を埋め、土間コンクリートを流した。そして床面積が40坪もある建物をジャッキアップ。昔ながらの石場建て*5の構法を残しながら、足元の構造を安定させるために礎石を交換した。

母屋の主用途は客間。盆、正月には親戚が14人集まる場所で、家族だけではなく親戚にとっても思い入れが深い。「民家再生では、記憶を残すことが大事」だと宮本さん。床の間や縁側、建具といった、人々がなじんできた細部を残すことが重要。仕上げ材は一度はずし、柱や鴨居の歪みを直した後、元の場所に戻していった。

福岡悠山想
貴重なケヤキの一枚板で仕上げられた既存の縁側と、木の年輪を浮き出させる「浮造り(うづくり)加工」の杉板の床。

町の工務店探訪福岡・悠山想

悠山想の代表・宮本繁雄さん(左)と「恵比須町の家」オーナーご夫妻。

「ジャッキアップは迫力があってすごかったです」とご主人。「小舞を組んで、板を張って、塗って……という左官のお仕事も、珍しいので興味深く眺めていました」と奥様。新築の住居棟については、棟上げ以外は、当時30代の大工がほぼひとりで担当。母屋の改修は民家再生に慣れたベテラン大工を加えて進めた。新築・改修それぞれの工事を半年ほどかけてコツコツと進めていく姿は、オーナーご夫妻にとって頼もしく映ったようだ。

細部にまで職人の手仕事を貫く悠山想。現代の効率化の流れに逆らうようにも見える家づくりの姿勢は、どのように育まれたのだろう。次回、拠点を訪ね、ものづくりの現場を見せてもらう。

*1 櫨蝋(はぜろう) ハゼの実からつくる蝋燭の材料。
*2 天然乾燥 木を屋外で風を通しながら自然状態で乾燥させること。乾燥期間の短縮と寸法の安定のため、近年は人工的に機械乾燥させる人工乾燥が主流だが、内部割れが生じ、木の強度が低下するといったリスクがあるため、天然乾燥材を使いつづける工務店も一定数存在する。
*3 手刻み 柱や梁の接合部である「仕口」や「継手」の加工を手作業で行うこと。大工が自ら墨付けし、電動工具やノミ、ノコギリを使って刻む。
*4 プレカット 柱や梁の加工を工場で機械的に行う方法で、現在は主流となっている。
*5 石場建て 礎石の上に柱を置く建て方。日本では古代の寺院から戦前の住宅まで一般的な方法だったが、昭和25年に定められた建築基準法の規定に乗らないため、戦後はほぼ使われることがなくなった。


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆 

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