工務店の魅力を伝える仕事

2

はじめてのパンフレットづくり

ひとり広報企画スタート

自分の会社のことを伝えるために、皆さんはどうしていますか?
前回お話しましたが、「風の森」はカフェや雑貨屋など、いくつかの店舗が集まっている森。その一角で、浜松建設は工務店の仕事をしています。私が入社する前、「風の森」に来場されたお客様には、四つ折りの小さなパンフレットを渡していました。雑木林の家モデルハウスを中心に、会社の概要が少しだけ記載されたバイブルサイズのパンフレットです。

浜松建設パンフレット

四つ折りのパンフレット:会社の概要がまとまってはいますが、物語性のない簡素なものだった

パンフレットには、モデルハウスの写真と受賞歴、地図に住所に盛りだくさんの情報が書かれていました。その内容を手がかりに、営業担当はお客様と会話をし、家づくりの話などに広げていました。社長の濵松はラジオやテレビに呼ばれるほど話上手でしたので、このくらいの小さなパンフレットでも、またはパンフレットなどなくても会社のことを伝えることはできました。社長がそれぞれのお客様へ案内することも、当時の浜松建設の規模では可能でした。ですが、規模が大きくなるにつれて社長一人では、すべての接客はできなくなりました。すると、お客様に会社の歴史や想いといったものを伝えきれず、何よりお客様の手元に残るものがない、という問題が起きました。その状況を見て社内を見渡すと、情報発信として伝えるツールやアイテムがこのパンフレット以外にないことに気づいたのです。
社内でも企画や広告は、営業や総務が兼任でしていました。現場の仕事が優先ですから、大事な仕事とは思いつつ広報の仕事は二の次でした。そんな状況で、ひとり広報企画の仕事がスタートしたのです。

会社のことを自分がどれだけ知っているか

ひとり広報企画となった私の仕事は、まず新しいパンフレットや展示会のチラシを作ることでした。
パンフレットといっても取扱説明書ではないので、会社の概要を掲載すれば済むというわけにはいきません。お客様が本当に必要としている情報が掲載されているか、心がワクワクするような言葉や写真があるか、お客様の夢がそこにあるか。パンフレットを、そんな思いの詰まったものにしたい、と皆さん思いますよね。
そこで、何から始めるかが肝心です。まず「会社のことを自分がどれだけ知っているか」という探究から始まります。すべての作業にも共通するのですが、会社の特徴とは何か、この会社のステキなところは何か。これを探求する作業はとても大切です。何より、お客様にとって会社の特徴が伝わることは家づくりをする際にどの工務店を選ぶか基準になるからです。それで、社員の皆さんに会社の特徴を尋ねまわりました。
「ウチの特徴って何ですか?」なんて聞いてはいけません。「材木業ってどんな仕事ですか」「会社(事務所)のいいなと思える場所ってどんなところですか」などと聞きます。社員だけでなく、大工さん、取引業者さん、そしてOBのお客様にも、です。具体的な質問をすれば、間違っていると正してくれますし、こっちの方が良いよとアドバイスをするように話を広げてくれます。この取材をすることで、沢山の情報を得られ、ネタのストックを作ることが出来ました。コミュニケーションも取れて一石二鳥です。
これをもとに、会社の特徴を作文することも出来ましたし、イメージカラーやキャッチコピーなどを作る際も、言葉のストックを生かせました。このように取材さえちゃんと出来ればあとはそれをヒントに自分なりに言葉のストックからピックアップして作文するだけです。取材の際には探究心がないと、上手く質問も出来ません。些細なことでもひっかかることに興味を持つことが大切です。取材して言葉のストックをまとめさえすれば、デザイナーさんにスムーズに要望を伝えることが出来ますし、形にしたいイメージを絵や言葉にするととても伝わります。

ネタをまとめた資料:会社の出来事などを自分なりにまとめ、20枚ほどになった

現在のカタログ:写真やカット・レイアウトバランスに気を遣った

そうしてパンフレットづくりが始まったのですが、会社には馴染みの印刷屋さんがいましたから、印刷屋さんのデザイナーさんで注文をかけることになります。でも、どうしても噛み合わないのです。作りたいイメージや内容を伝えても、ピタッと来ないのです。何度打合せを重ねてもです。これはまずいと、結局自分の知り合いのデザイナーさんにお願いしても良いかと会社に確認をとり、カメラマンを決め、印刷だけを馴染みの印刷屋さんにお願いしたのでした。
結局、パンフレット作りは取材と制作含めて半年もかかってしまいましたが、3年経った今でも使えるパンフレットになりました。パンフレットが出来たことで、会社のイメージもランクアップしましたし、丁寧な広告ツールはブランドを作るうえで大切な役割を担っていると実感しました。このパンフレットに関する取材の「まとめ作業」は、このあとのチラシや本づくり、ホームページの作業にもずっと役立ちました。

そして、もう一つ。じつは身近なところで効果がありました。このパンフレットによって、社員たちが改めて会社の歴史や想いを共有できたのです。お客様のために作ったパンフレットでしたが、巡り巡って自分たちにとっても大事なものとなったのです。

浜松建設設計室

自社らしい設計室:自然を見ながら仕事が出来る環境にお客様も共感

著者について

村上比子

村上比子むらかみ・ともこ
「風の森」「風びより」の総括マネージャー

九州造形短期大学(現、九州産業大学造形短期大学部)卒業後、大手設計事務所勤務。企画コンペ専門の実務を経験し、工務店、コンサルティグ会社を経て、現在、株式会社浜松建設の企画運営マネージャーとして広報企画を担当。「風の森」「風びより」の運営ブランディングを行う。「大工の手づくり家具・モクモク」のデザイナーでもあり、「風びより」「風の森」で使われている家具やデザインをモクモクオリジナル商品として提供している。

連載について

工務店には広報が重要とわかりながらも、未だモデルケースや方法論などは明確にはない状況です。広報担当者は「孤独」に追い込まれていると『新建ハウジング vol.770』は伝えています。長崎の工務店で広報企画を担当されている村上さんのお仕事は、まさにこのテーマに対する一つのお手本のようでもあります。毎日長崎県内を縦横無尽に移動し、活躍されている村上さんが、これまでどのように広報の仕事を担当されてきたのか、教えていただきます。