家族のかたちで住み替える
ヤドカリプロジェクトの試み

浜松市内を車で走っていたところ、ラジオから「ヤドカリプロジェクト」というプロジェクトが市内で進行中であることを知りました。進めているのは、建築家・白坂隆之介さん。白坂さんは、浜松市内で空き家を買い、リフォームしてしばらく住んだのち転売しまた次の空き家を買ってリフォームしてを繰り返す、「ヤドカリプロジェクト」という実験的な活動に取り組まれているとのこと。何やら聞きなれない話に興味を持ったびお編集部の尾内と林は、さっそく白坂さんにインタビューすることにしました。

Vol.1  新しい家族のために、空き家を買って改修する

10月の長雨の頃、白坂さんから教えてもらった住所を訪ねました。一見すると建築の設計事務所というより、ふつうの民家の構え。間違ったのだろうか? と恐るおそる玄関のチャイムを鳴らすと、白坂さんが顔を出してくれました。ドアの中では、ちらりとおばあさんの姿が。どうやら白坂さんの事務所は、祖父母の家の一室を利用しているようす。どこか懐かしい趣の和風の玄関をくぐり、応接間へと案内していただきました。雨脚の強まる音を聞きながらのインタビューです。

 ラジオから「ヤドカリプロジェクト」の話が流れてきたとき、これは!とピンと来ました。白坂さんのHPでは、ヤドカリプロジェクトとは、①空き家を買う。②資産価値を回復させるため空き家を全面的にリフォームする。③自宅兼事務所として使用したあと転売し、利ざやを元手に次の空き家を買う。これを繰り返しヤドカリのように移動しながら空き家を次々によみがえらせていくプロジェクト。と紹介されていますね。今日は、白坂さんがなぜこのようなプロジェクトを始められたのか、どのように進めているのか、お伺いしたいと思っています。

白坂隆之介さん、リフォーム中の新居を背に

尾内 そもそも、白坂さんは浜松のご出身でしょうか?

白坂 はい、そうです。去年の11月末に浜松に戻ってきました。以前は東京都の高円寺に住んでいました。京都大学の大学院を修了してから、東京のシーラカンスK&Hという設計事務所に8年間勤め、2016年に東京で独立しました。同年9月に浜松に空き家を見つけて、それを自分の家として改修して住もうと思い購入しました。

尾内 浜松に戻ってきた理由というのは?

白坂 今年の4月に結婚をして、奥さんが愛知県の春日井市で勤めています。僕はもともと東京で奥さんとは遠距離恋愛だったんですけれど、相手は東京に来る気配もなく。離れて暮らしていたときは京都で仕事があったので、東京と京都を往復する途中で会っていたんですけれど、もうちょっと東京から名古屋に近いところに住みたいと思い、実家も浜松だったので戻ることにしました。まだ一緒に暮らしていませんが、今鴨江で改修している新居が完成したら一緒に暮らす目標を立てています。

尾内 新しく家族をつくることを前提とした設計なのですね。

白坂 すごく小さい家なので、ワンルームで使おうと思っています。僕ら夫婦2人と子どもが1人できたらちょうどいいくらいの大きさ。ずっとここに住み続けるわけではないと考えていて、しばらくは転々としていってもいいのかなと思っています。

ヤドカリプロジェクト

当面はSOHOとして利用する予定 http://region-studies.co.jp/kmr.htm より

尾内 家を転々としていくという感覚は、抵抗がある人もいると思います。白坂さんが転々とすることに抵抗がない、受け入れられている理由はなんですか?

白坂 私も家庭をもって長いわけではありませんし、学生時代から借家住まいでその延長線上でしかまだ考えられていないというのが理由としてあります。
欧米の生活を見ると、退職してから老夫婦だけで小さい家に引っ越して生活するというライフスタイルもあるようですが、日本ではそのようなライフスタイルはまだ一般的ではありません。仮事務所として使わせてもらっているこの祖父母の家もそうですが、一家で暮らしていた大きな家から子どもたちが出て行ったあともずっと老夫婦だけが住み続け多くの空き部屋ができてしまう現状があります。そうして家はやがて空き家になっていきます。その流れが今の空き家増加の一因になっていると言えます。これからはマイホームを買ったら終わりではなく、家族の形態に合わせて家をどんどん住み替えていけるような、中古住宅が流通する時代に向かうだろうと思います。

 以前、東京では規模の大きな建築の設計をされていたとお伺いしました。そこから住宅に転換された理由はあるのでしょうか?

白坂 事務所に勤めていたときは図書館や学校など大きな施設の設計に携わりましたが、独立したらいきなり大きな仕事は入ってこないので、まず自分の家からということです。自分の家をつくるにもそんなに大きな借金はできないので、安く買えて、あとで転売できるようなやり方がないのかなと模索したときに、このプロジェクトのアイデアが生まれました。

 どうやったら安く中古物件を買えるのですか?

白坂 一般的な木造住宅の場合、建物自体の価値は築25年を過ぎると0円になります。僕が買った物件は、土地と建物込みで180万円ですが、ほとんど土地の値段なんですよね。しかも空き家のある土地って建物を取り壊さないといけないので、かえって安いんです。

 なるほど。土地は何を基準に選んでいるのでしょうか?

白坂 あまり町外れじゃないことですね。駅から2~3キロの距離なら東京の人からすると歩ける距離ですから。買った空き家もその範囲内ですが、たまたま浜松市中区全体でも一番安かったんです。

浜松市中区

浜松市中区の風景

尾内 一番安い理由とは?

白坂 土地面積としては60坪くらいで、鴨江でいうと坪20-25万円が公示地価。そうすると1300万円くらいするのですが、背後に崖を背負っていて、「補強しないと売れない」と不動産屋さんが思われていたようで、アットホームのサイトで見つけたときは300万円でした。「空き家は壊さなくていいからその分安くして」と交渉したら、180万円にしてもらえました。

崖

背後には崖がせまる

尾内 住宅の評価を正しく行うと、そこまで差が出るとは驚きですね。

つづく

著者について

白坂隆之介

白坂隆之介しらさか・りゅうのすけ
建築家
1979年浜松市出身。京都大学で宇宙物理学を学んだ後、同大学工学部建築学科へ学士編入。地球環境学修士。シーラカンスK&Hに8年間勤め、学校や病院などの設計を担当。2016年、REGION STUDIESを設立。浜松にUターンし、「ヤドカリプロジェクト」始動。同プロジェクトで地元信金のビジネスコンテスト最優秀賞受賞。一級建築士。

家族のかたちで住み替える
ヤドカリプロジェクトの試みについて

浜松市内を車で走っていたところ、ラジオから「ヤドカリプロジェクト」というプロジェクトが市内で進行中であることを知りました。進めているのは、建築家・白坂隆之介さん。白坂さんは、浜松市内で空き家を買い、リフォームしてしばらく住んだのち転売しまた次の空き家を買ってリフォームしてを繰り返す、「ヤドカリプロジェクト」という実験的な活動に取り組まれているとのこと。何やら聞きなれない話に興味を持ったびお編集部の尾内と林は、さっそく白坂さんにインタビューすることにしました。