色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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閉店時も絵になる景色
––美容院の店先にて

季節外れの台風や長雨が続きますが、つかの間の晴れ間、初秋の柔らかな日差しを浴びるとやはり様々な色が印象的に目に映ります。
会社の近くにある美容院は、火曜日が定休日です(これは関東地方の習慣なのですね。そういえばなぜ火曜日がお休みなんだろう?と調べてみて初めて知りました)。通りに面した側面は大きなガラス張りになっていて、店内の様子(壁面のディスプレイからカットをされているお客様まで)がよく見えるのですが、定休日にはシャッターが降ろされ、ガラッと違う景色になります。

閉店時とはいえ、全力で道行く人を歓迎しているかのような景色。

ある火曜日の午後、昼食を取りに出かけようとこの美容院の前を通りかかると、シャッターとその前に置かれたプランターに向かいのサクラ並木の木陰が映し出され、はっと息をのむような印象的な光景が拡がっていました。まほぼ毎日通る道すがらですので、開店時も様々な植物があるなあ、とは思っていたのですが、午後の日差しによっていつもの景色が劇的に浮かび上がって見えたのは「シャッターという背景」があったからなのではないか、と考えています。色が印象的に見える仕組みのひとつとして「図と地の関係性」がありますが、地となる背景があるからこそ、図となる彩りが一層引き立つ、ということが言えるのではないでしょうか。

外壁、建具の色気とともに、草花の色彩が楽しく朗らかな印象を感じさせます。

この美容院は季節の良い時期には入口の扉が開け放たれ、いかにもようこそ、という雰囲気に満ちています。開店時は店先に様々な色が溢れ、おとなしい看板犬の存在も含め生き生きとした色彩環境が構成されている一方、閉店時にはオフホワイト色のシャッターによってがらりと雰囲気が変わります。多様な種類や大きさの緑とともに、外観のオンとオフがきっちり切り替えているような、そして閉店時でも決して味気なくない…そんな緑の見せ方もあるのだなと感じました。
レッド系の外壁とブルーの扉という特徴ある配色は、まちの目印にもなっていて、私も事務所の場所を電話で伝える時などに『つきあたりにピンク色の美容院があるから、そこを左に曲がって……』などと説明することもあります。

測色の様子。建築の基調色には珍しいR(レッド)系の色相ですが、1階部分のみの彩色はまちなみに程よい変化を与える存在となっています。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★
全体のカラフル感 ★★★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。