町の工務店探訪③

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.3  海辺のリノベーション秘密基地
福岡・長崎材木店

高速道路を降りて糸島市内に入ると、釣具店と同じくらいの頻度で民家を改修したカフェやショップがあらわれる。「糸島は最近、感度の高い人が移住してお店を開いたりしはじめて、首都圏でいうところの湘南のようなエリアになりつつある」と福岡で暮らす知人から聞いたことがある。しかし道幅も広く渋滞もないここには、湘南の生存競争の厳しさはない。車窓をゆったりと眺めているうちに、別荘地のゲートがあらわれた。目的地は別荘地として開発された小さな半島一帯の、先端にある。

自力で管理できる海辺の小屋「糸島キャビン」


上写真/「糸島キャビン」を海辺から仰ぎ見る。
表題写真/「糸島キャビン」の目の前に広がる、おだやかな海。クジラの風見鶏は
WOOD VILLAGE」内のエクステリアと雑貨の店「ESTINA」で扱っているヴィンテージ。

「糸島キャビン」は崖にへばりつくように建てられた、築35年ほどの別荘を改修した週末住宅だ。上階にLDKが、下階にベッドルームとゲストルームがある。何といっても贅沢なのは、目の前の海をプライベートビーチとして独占できることだ。玄関をあけると海に向かって大きく開くLDKがあらわれる。窓の向こうに見えるのは空と透き通った海ばかり。室内は、既存の木の質感を生かした天井と床、白いペンキで塗られた壁で囲まれている。経年変化した床や塗りムラのある壁には味わいがあり、まるで使い古したボートのようなラフな質感だ。機能がコンパクトに詰まった小ぢんまりとした部屋から、海の広がりが感じられて気持ちいい。

「3年ほど前、たまたまインターネット上の不動産情報で見つけて、即決で買いました。決め手はこの海ですね。800万円だから、中古のちょっといい外車を買うような感覚です。かなり傷んでいたので週末ごと少しずつ、自分と会社のメンバーでペンキを塗ったりして手を入れて、使えるようにしていきました」と長崎社長は振り返る。

「下に最近整備したデッキがあるので、行ってみましょう」と促され、階段を降り、居室のあるフロアに移動する。LDKの下にあったデッドスペースに床と壁が張られ、海とダイレクトにつながる半屋外のデッキができている。「元々は柱が4本立っていただけ。そこに壁を付けて、床を置くと、額縁のようになるでしょう」。風も音も抜ける分、LDKよりもさらに海に近い。より非日常を味わえる海辺の特等席だ。

「糸島キャビン」に設えた海辺のデッキ。テラスの海とのつながりはジェフリー・バワが手がけたスリランカのホテル「ライトハウス」を意識したそうだ。

「ゆっくり過ごすのが、いいんですね。カヌーで海を散策したり、ボートを出して釣りをしたり。山小屋もそうだけど、自分たちで一通り手入れしていけるのがいい」と長崎社長は語る。かつては小型船も所有していたそうだが、マリーナに停める必要があるなど手がかかるので、手放したという。さまざまな遊びに挑戦して行き着いたのが、建物を自力で直せて、船も自分で管理できるプライベートな海辺の小屋なのかもしれない。

「家づくりは素直に、
暮らしは総合的に提案する」

イームズのラウンジチェアでくつろぐのが長崎社長の基本スタイル。

800万円で手に入れた家を、自ら手を加えた週末住宅。眺望の迫力に驚かされるのだが、リノベーションの手法そのものはさっぱりとしていて嫌味がない。最小限に手を加えた床や壁の仕上げや、額縁のように景色を切り取る静謐なテラスからは、空間に対する美意識が伝わってくる。建築デザインの考え方と、長崎材木店の家づくりとの関係について聞いてみた。

——既存の建物の形や素材の質感を生かしたリノベーションが素敵です。シンプルなのに個性があって、建築家の誰々さんのデザインに似ているな、というような既視感がありませんでした。何かイメージソースとなっているものは、あるのでしょうか。

長崎 何となくですがジェフリー・バワが手がけたスリランカのホテルから受けた影響はあるかもしれません。上のフロアや下のテラスの海とのつながりは「ライトハウス」、崖や森に囲まれた佇まいは「ヘリタンス・カンダラマ」かな。2、3年前に行ったスリランカ、楽しかったですね。

——確かに近いかもしれません。でも具体的に建物が似ているというよりは、景色や空気感が近い感じがします。長崎材木店の家づくりの考え方と共通するところもあるのでしょうか。

長崎 僕自身、あまりつくり込んだ家が好きではなくて、注文住宅も素直につくるのがよいと思っています。うちの建物は寸法をある程度ルール化しているので、奇をてらったものにはなりません。ただ、最近若い方の志向が肩の力が抜けたライトなものへと変わりつつあるので、商品も少しずつ見せ方を変えていますね。でもモデルハウスはどれも建ててから6、7年経っているかな。ベーシックな建物なので、古くなっても通用します。

——確かに山小屋も「糸島キャビン」も立地は尖っていますが、建物はベーシックです。

長崎 建物のスタイルは変わっていませんが業務としては住宅会社の枠を超え、注文住宅もリノベーションも、不動産も外構も扱うというように、暮らしから派生するありとあらゆることをやるようになって来ました。そこで最近は営業系のスタッフもコンサルティングに近いことができるように変えつつあります。顧客の要望を聞き取りながら諸処の状況を加味しつつ、「アパートを建てましょう」とか「中古住宅を買ってリノベーションしましょう」と企画から総合的に提案できるようにしているんです。

——幅広い知識を持っていないと対応できない業務ですね……。今日は素敵な場所を見せていただき、ありがとうございます。

長崎 今日は天気がよくて、よかったです。僕はしばらく本を読んでゆっくりしていきますので、ここでお別れしましょう。

長崎社長の自然と戯れる心地よい時間を優先させる価値観。ニーズに合わせて経営方針を変えていく柔軟性。それぞれが独立しながら、ビジネスにもつながっていく不思議なバランスに、よい意味で驚かされた。暮らしを楽しむことを追求する長崎社長の姿勢がビジネスの背景にあるからこそ、長崎材木店のシンプルで、顧客に寄り添う家づくりも、骨太なものに感じられる。そして根底にあるのは、家を建てることを目的とするのではなく、理想とする暮らしを実現するための道具として、家があるという考え方なのではないだろうか。長崎材木店は、趣味を極めたい人、資産を形成したい人、どんなニーズを持つ人に対しても、家づくりを通して人生をサポートしてくれそうだ。

 

運営施設:WOOD VILLAGE
http://www.nagasakizaimokuten.co.jp/


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆 

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