町の工務店探訪③

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.2  オフグリッドの山小屋づくり
福岡・長崎材木店

ところで長崎材木店のホームページを拝見すると「材木店」の名を冠する老舗のイメージとは結びつかない、非日常的で遊び心を感じさせる実例が目にとまる。

http://www.nagasakizaimokuten.co.jp/
表題写真/長崎材木店の長崎社長が山を開いて建てた小屋。右奥は社長の愛車・オールドベンツ。

たとえば「愛着あるデニムのように魅力を増す、家族の歴史」というページを開くと、広い芝生に囲まれたオープンな建物があらわれる。せり出すバルコニーと大きなガラスの開口部には、青空を自ら捕まえにいくような貪欲さも感じられる。海辺の別荘とか、ゴルフのクラブハウスのような出で立ちだが、これが二世帯住宅だというから意外だ。

そして「セルフリノベーションで手に入れたヴィンテージ感漂うヨットのキャビン」の場合、家の紹介なのに、トップの写真はほぼ海。築50年以上の海辺の別荘を改修した、ウィークエンドハウスだという。説明を読み進めていくと「『まるで石垣島か竹富島のような眺めです。この段階で建築が持つポテンシャルを感じてしまいました』と嬉しそうに長崎社長は振り返る。」という一文を発見。ここはどうやら長崎材木店の五代目社長、長崎秀人さんの私邸のようだ。さらに「長崎社長はこの建物を『HOBBY』と表現する」という文章もある。長崎材木店にとってはバリバリの「BUSINESS」であるはずの家づくりを、「HOBBY」と言い切る余裕はいったい何なのだろう……。

聞くところによると長崎社長はサーフィンや釣り、ヴィンテージカーを愛する趣味人。最近新たな「HOBBY」にハマっているそうで、山を開拓し小屋を建てているとか。今回、その山小屋を案内いただけることになった。

長崎社長。

「先導しますので、ついてきてください」

遊びが好きで、海や山に別荘を次々と建てているという事前情報から、押し出しの強い青年実業家風の人物を想像していたのだが、待ち合わせの場所でオールドベンツから降りてきた長崎社長はとてもおだやかな雰囲気の方で、ほっとする。しばらく付いていくと、中型のベンツで進むにはぎりぎりの山道に突入。これは先導いただかないと、まずたどり着けない。大量に落ちている栗をやむを得ず踏み潰しながら、細い山道を分け入るようにして車を進めていく。

オフグリッドの山小屋

10分ほどで、平地が開けた一画にたどり着いた。元は耕作放棄地だったという1500坪、サッカーフィールド並の規模がある柿畑を4年前に購入。まずは元からあった農作業小屋を改修。つづいてベッドルームやキッチン付きのログハウスを新築したそうだ。

新築したログハウスからの見晴らし。

ここは電気の供給を受けない、いわゆる「オフグリッド」の家だ。太陽光発電のパネルを3カ所に設置し、その電力で室内の照明やAV機器などを動かしている。水は井戸を50m掘ってタンクに貯め、お風呂やキッチン、トイレに引いている。お風呂は当初は五右衛門風呂を使っていたが、火を焚くのは手間がかかると「おそらく温泉からの払い下げ品」だという“石のバスタブ”を入手し屋外に設置した。吹きさらしのお風呂だが、灯油式のボイラーでお湯を温める仕組みで、自動でお湯はりもできるしなんと追い焚き機能も付いているそうだ。

「週1、2回来ます。朝7時か8時に家を出て、山を眺めながら本を読んだり、お風呂に入ったり、お酒を飲んだりして、夕方5時か6時に帰るんです」と長崎社長。なんと優雅な過ごし方なのだろう……。

「趣味が仕事になり、差別化につながった」

ログハウスの前に設えたウッドデッキと長崎社長。

なぜ長崎社長は、山を開拓し、小屋を建てているのだろうか。また、社長が「HOBBY」と位置づける山小屋づくりと、長崎材木店の本業である「BUSINESS」としての家づくりとの関係とは。まずはお話を聞いてみた。

——山を開拓してオフグリッドの小屋を建てる原動力は、どういうところから来るんですか?

長崎 僕は自然と戯れるのが好きで、また建築の学校を出ているわけでもないのですが、基本的に建築や空間をつくることが好きなのです。中学生の頃、自分の家を改修したりもしていました。こういった場所をつくることは、その延長上にありますね。趣味が仕事になったというか、好きなことを今でもしている感じです。

——ビジネスに結びつけるべく、「目的を持って遊んでいる」面もあるのでしょうか。

長崎 ものが好きな一方で、マーケティングや宣伝も好きで、戦略的に趣味や遊びを前に出している部分はあります。木の家を真面目につくる工務店は他にもたくさんあるので、うちは遊びの要素を出すことで差別化できるかなと。といっても、こういう試みはお客さんに見せてはいないのですが。

——ホームページを拝見した限りでは、お客様にも遊びや趣味を大切にされている方が多そうですね。

長崎 Webやスタッフを経由して暮らしを楽しむ世界観が伝わるのかもしれません。でも最近は直接お客さんと会うことは、あえてしていないのです。僕はもう53歳になるので、お客さんも共感しにくいでしょうから、若い世代に任せて行こうと。

——なるほど。それで若い方に現場を委ねているのですね。こちらには、お客様は来られるのでしょうか。

長崎 まだ来ていません。でも糸島につくった海辺のキャビンは、近々モデルハウスにしようと思っています。リノベーションの実験工房みたいな感じにしていて、先日も船着き場を建ててウインチ(船を引き上げる装置)も設置しました。面白いですよ。ご案内しましょうか。

独特の世界観を持ちながらあえてそれを表に出さず、現場を若いスタッフに任せて飄々と「遊び」を楽しむ長崎社長。その奥深さが図りきれないまま、わずか30分の滞在で山小屋を後に、取材クルーは一路、海辺のキャビンのある糸島へと向かうことになった。そこまでの距離は約80km。高速道路を使っても移動に約1時間半かかる。「ご案内しましょうか」という軽い言葉からは想像のつかない距離感だ。このフットワークの軽さが、山や海での家づくりへと向かわせる原動力なのだろうか。


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆 

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