町の工務店探訪③

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.1  信頼関係から家づくりに進める場所
福岡・長崎材木店

長崎材木店は明治30年創業の材木店を前身とする老舗の工務店だ。注文住宅、リフォーム、不動産、庭づくりなど、住まいに関わるさまざまな事業を手がけている。本社を構える福岡県古賀市には、4つのモデルハウスとガーデニングや薪ストーブのショールームなどが並ぶ住宅展示場「WOOD VILLAGE」に加え、事務所や倉庫、社員食堂などさまざまな施設が点在する一大拠点がある。

暮らしを体感できるモデルハウス
「WOOD VILLAGE」

「WOOD VILLAGE」にある施設を、長崎材木店でコーディネーターと広報を担当する八島也実さんに案内いただいた。八島さんは入社一年目。出身はこの近くで、山口県内の大学で建築を学んだ後、風土を大切にした取り組みをしている会社で働きたいと故郷に戻り、長崎材木店に入社したそうだ。

上写真/「OHAKO」のリビングダイニング。表題写真/「WOOD VILLAGE」の樹木に囲まれて建つモデルハウス群。

◆OHAKO
コンパクトな箱形のリーズナブルな規格住宅「OHAKO」のモデルハウス。2タイプのマスタープランに16のバリエーションをカスタマイズしてつくる18通りのベーシックプランで構成されている。柱と梁は宮崎県産の飫肥(おび)杉で、床は無垢のマツ。壁の仕上げには調湿効果があるという火山灰系の材料ゼオライトが使われている。雑貨は「WOOD VILLAGE」内にあるエクステリアと雑貨の店「ESTINA」がセレクト。実際に人が暮らしているかのようなディスプレイがなされている。一方で、建物の説明は控えめだ。住宅の性能を強調するような広告がほとんどなく、品がよい。

「楽しい家」のガレージ。長崎社長の“コレクション”が並んでおり、この車を見に来られるマニアもいるそう。

◆楽しい家
「WOOD VILLAGE」のランドマーク的な位置づけを持つモデルハウス。土間からつながる大きな吹き抜けと、リビングとガラス一枚でつながるビルトインガレージがある。ガレージにはヴィンテージカーやバイク(長崎社長の私物!)が並んでおり、趣味に没頭できるライフスタイルを提案している。他にも3間×5間の直方体をベースとしたベーシックなモデルの「kinariの家」、書斎や坪庭などがあり多様なシーンが楽しめる「Case study house」といったモデルハウスがあり、その多くには金額が明記されているので、自分の手が届くどうかを現実的に考えながら見学できる。

屋外に設けられた休憩スペース。

◆休憩スペース
木材置き場をリノベーションした休憩スペース。一般のお客さんが入ってこないエリアにあり、普段は社員の休憩や、社員同士の打ち合わせに使われている。時折ここを利用して公開イベントも開くそうだ。


「CANTEEN」外観。

◆CANTEEN
毎週月曜日に開かれる社員食堂。長崎社長の知人だというシェフが出張し、料理を用意する。長崎材木店は、さまざまな部署に分かれている。注文住宅事業部、不動産事業部、リフォーム事業部、「BESS」のログハウスなどを扱うBESS事業部があり、それぞれ5〜20名ほどのスタッフが在籍する。社員食堂「CANTEEN」では毎週月曜日の会議の後、雑談ベースで部署を超えたコミュニケーションを図ることができる。

「ランドシップカフェ」外観。

◆ランドシップカフェ
「WOOD VILLAGE」から車で15分程度の距離にある海辺のモデルハウス。元々ここに建っていた別荘をリノベーションしたものだ。現在は運営を外部委託し、カフェとして営業されている。

「コーディネーターとの信頼関係の奥に、
家づくりがある」

「WOOD VILLAGE」には、気軽に遊びにいけるような開かれたモデルハウスやショールームがある。その一方、社員食堂「CANTEEN」や屋外の休憩スペースなど、会社内でのコミュニケーションを活性化させる仕掛けも魅力的だ。入社10年目で、長崎材木店の営業部門と広報部門を統括する堀井裕章さんに、この場所と家づくりの関係を解説してもらった。

——年間でどれくらい棟数を手がけているのですか?

堀井 注文住宅が25〜30棟、「ログハウス事業部」が50棟くらいです。すべての棟の設計は4人のスタッフで行っています。

——少ない人数でたくさんの棟数をこなしていらっしゃるのですね。

堀井 設計ルールに基づいた住宅を展開しているので、質を下げずに少人数で設計することが可能です。注文住宅は、住宅作家の吉田桂二さん、田中敏溥さんの考え方を踏襲した総二階+下屋形式を基本に、住みやすいプランや良い材料を限定的に用意して選んでいただく仕組みになっています。家づくりが規格化されていることは、良質なものを手頃な価格で提供することにつながっています。

——どうやって今のスタイルにたどり着いたのですか。

堀井 私が入社して間もない2008年に田中さん設計によるモデルハウスを北九州市に建て、木の家のデザインを追求しはじめました。そして2、3年前に住宅展示場を「WOOD VILLAGE」として整備して、住まいの相談を何でも受けられる場所になってきたという流れです。

——さきほど「WOOD VILLAGE」をご案内くださった八島さんは、コーディネーターという肩書きでした。どんなお仕事なのでしょうか。

堀井 最近、営業スタッフはコーディネーターという肩書きに変わり、お客様に寄り添いながら全方位的なアドバイスをする役割をしています。特徴は、うちの会社はこういう家づくりができますという主観的な話をするのではなく、客観的に話すことですね。まずはお客様の生活スタイルや将来的な展望をお聞きして、それから家づくりの全体像をお話して、その中からお客様に合うスタイルはこういうものではないか、うちならこんな提案ができますよ、というふうに。

——お客様の家づくりに寄り添う役割なのですね。モデルハウスも品がよいというのか、性能を説明するポスターもほとんどなく、驚きました。

堀井 あくまで選択するのはお客さんですから、建物の説明を詳細には語らずに、一歩引くようにしています。モデルハウスがあって、それを売るための営業マンがいる、という形ではなく、コーディネーターとの信頼関係の先に家づくりがあるという流れを意識しています。

しっかりとしたルールを持つことで、シンプルで住みやすい家を手が届く金額で提供し、顧客に対しては一歩引いて寄り添うことを徹底している長崎材木店。建物のオーナーは営業マンに丸め込まれることもなく、主体的に家づくりを進められそうだ。そして堀井さんも、案内をしてくれた八島さんも一般的には若手と呼ばれる世代だが、かなり高度で幅広い業務を任されている印象がある。長崎材木店の一歩引いた家づくりのあり方や、若いスタッフに責任を持たせる社風はどのようにできているのだろう。次回、社長の長崎秀人さんが実験的に建てている山小屋を訪ね、お話を聞く。


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆 

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