色彩のフィールドワーク:もてなす緑

2

小さくとも印象的な彩り
––洋菓子店の店先にて

前回の和菓子店に続き、今回は洋菓子店です。歩いているとき開口部のくぼみに併せて置かれたプランターが気になったので、後日改めて写真を撮りに行きました。少し引いて正面からお店を見てみると、ダイナミックにY字を描く街路のソメイヨシノが何とも絵になっているなあと感じました。

 

街路樹のサクラがファサードを背景にY字バランスを取っているような店先。

店舗の前の歩道は決して幅が広い訳ではないので、大きく成長したサクラがいささか窮屈そうにも見えます。地面を見ると一部アスファルト舗装をやり直した様子が見て取れるので、樹木の成長とともに根が張り、地面を押し上げてしまったのではないかと推測することもできます。近年ではこうした成長の具合から、歩道沿いにソメイヨシノの植樹が避けられる事例も少なくないそうです。それでもなお、この場所で4月の初めに淡いサクラの花びらが舞う光景を想像すると、毎年その時期を心待ちにしている地域の方々がいるのだろうなということに気持ちが動いていきます。

 

小さくとも華やかな彩り。面積は色の見え方に大きく影響していると感じます。

プランターに話を戻します。近づいてみると、可愛らしい小さな花々が添えられていることがわかります。赤、黄、橙といずれも鮮やかで強い色調ですが、それぞれはごく小さな花弁なのでけばけばしい印象はありません。こうした色調が派手過ぎず、どこか愛らしく上品な「彩り」として感じられることにどのような「要因」があるのだろうか、ということを長く考えて来ました。
さまざまな環境や状況に触れるうち、自然界には【鮮やかな色は命ある小さなものが持っていて、地表近くに存在している】という法則があるのではないかと考えるようになりました。草花しかり、美しい羽色を持つ昆虫などもその範疇です。
鮮やかな色は小さくとも人目を誘います。生物はその法則を生存(種の保存)のために身に着けていて、自然界の中で効果的にその役割を発揮してきました。その法則に倣って色を配してみたり、まちを歩きながら印象的な景色を法則に当てはめてみたり。こうして日々、自然界の色彩構造に学ぶことが多くあります。

測色の様子。グレイッシュなY(イエロー)系、流れるような石目とわずかに黄味のある色調が上品な印象を与えています。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★
全体のカラフル感 ★★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。