町の工務店探訪②

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.3  築120年の古民家を再生したミズタワールド
熊本・ミズタホーム

ミズタホームのもうひとつの拠点「山ぼうしの樹」は「甲佐の家」と同じ甲佐町にある。約400坪の緑豊かな敷地内に、7棟の建物が点在している。ミズタホームの家づくりのサンプルケースでありながら、イベントや勉強会、時には結婚式の会場などにも使われる文化拠点となっている。

 

古民家のまわりにカフェ、バー、雑貨店が並ぶ
「Village 山ぼうしの樹」

上写真/「山ぼうしの樹」外観。表題写真/「山ぼうしの樹」のOUTDOOR GALLERY。

「山ぼうしの樹」には古民家を改修したスペース、ショップ、元米蔵を改修したバーなどさまざまな施設があり、それらはイベントがある時だけオープンする。水田さんと、木を生かしたものづくりへの関心から3年前にミズタホームに入り、「山ぼうしの樹」の管理運営、木工、木育、広報などを担当する森川瞳さんに案内してもらった。

さまざまな木の家具や小物が並ぶ「KICO」の店内と森川さん。

◆KICO
まず訪れたのは「KICO」。木の家具や小物を制作・販売する拠点だ。棚、テーブル、まな板や時計などは、森川さんが制作したもの。家具のオーダーは基本的にはミズタホームで家づくりをしている方のみ受けているそうだ。ちなみにここでは「甲佐の家」の奥様が制作したフェルトの人形も委託販売されている。


半外部のキッチンとリビングのある「OUTDOOR GALLERY」。

◆OUTDOOR GALLERY
庭とつながる半屋外のキッチン。調理器具がひととおり揃っており、食事スペースもある。

「母屋」の2階。

◆母屋
築120年の農家の邸宅を譲り受け、改修した母屋。1階は土間と畳、板敷きの座敷からなるフリースペースで、レクチャーなどが行われる。2階はゲストルームにもできる広間だ。

「蔵」の2階。

◆蔵
以前から「蔵をバーにしたい」と考えていた水田さんが、「これならできる!」と佇まいに惚れ込んだ築90年の米蔵。厚さ15〜20cmもの土壁と、漆喰で塗り固められており、夏は涼しく冬はあたたかい。1階はリノベーションして念願のバーに。2階はフリースペースになっている。

他にも「山ぼうしの樹」には牛舎をリノベーションしたカフェ「SLOW CAFE」、ガラス張りの小さな実験建築「6坪Café」、五右衛門風呂付き(!)の少人数用ゲストハウス「Hanare」など、さまざまな建物がある。年2回ほど「山ぼうしの樹」主催で家づくりやワークショップのイベントを行うほか、ものづくりや日本文化に関わるイベント、建築の勉強会など、さまざまなことに貸し出されている。貸出料は全体で5万円/日、母屋のみの場合1万円/日(2017年10月現在)。最近は、ここで結婚式を挙げようという方もあらわれたそうだ。

「古民家は、最高のお手本です」

「母屋」の1階で語らう森川さんと水田さん。

——「山ぼうしの樹」にはリノベーションした古民家だけではなく、さまざまな建物があるので驚きました。なぜこのような壮大なプロジェクトをはじめられたのでしょうか?

水田 ここは2年くらい空き家になっていて気にはなっていたのですが、知り合いの不動産屋さんから取り壊し話が出ていると聞いて、それならばと購入しました。それから10年ほど経ちますね。最初6年くらい忙しくて手付かずで、たまたま職人の手が空いた2012年に農家と蔵を改修。そこから徐々に手を加えていきました。

——事務所やモデルハウスからも水田さんの家づくりの考え方は伝わって来ましたが、ここでは何をお伝えしようとしているんですか?

水田 この母屋は、建築の参考書なんです。家づくりに必要な考え方が、見事に凝縮されている。「風が通るな〜」とか「湿気があってもさわやかだな〜」とか、実感できるでしょう?

——今日は結構暑いですが、母屋の中はとても涼しいですね。湿気も感じますが、ジメッとした嫌な感じがしないです。土壁が効いているんですか?

水田 そうですね。土壁は熱伝導率が低く熱容量が大きいので、夏は涼しく、冬は温かくなります。それに調湿効果もありますね。風もいいんですよ。外に木があるでしょう。葉っぱが“うちわ”の役割をする。葉っぱが持つ水分が熱を奪うので、温度を下げてくれるんです。

——さまざまなイベントで人が訪れているようですが、ここに人が集まることで、あらためて気づかれたことはありますか?

水田 ここ、母屋の2階に上がる階段が急でしょう。でも、こけた人はいません。人間、危険なところでは慎重になるんです。少し緊張感がある環境に身を置いた方が、健康にいいんです。床を水拭きするだけでも、相当なエネルギーを使う。これが運動になるから、あえて運動する必要がなくなります。私は「山ぼうしの樹」でも事務所でも、庭は自分で手入れしていますが、スイッチ入ると楽しいんですよ。自分のことも一緒に磨いているような気分になるし、木の体調にも気づくし、人間の小ささにも気づくんです……。

——身につまされます。自分の家、なかなか掃除ができていないので。スギの床は、水拭きでいいんですか?

水田 水拭きで大丈夫。バケツいっぱいの水をこぼしても、すっと乾きますよ。掃除は、習慣にすればいいんです。毎日顔を洗ったり、歯を磨いたりするのと同じように。不思議とここを使ってくださる方の多くは、お願いしなくても掃除して帰ってくれます。

——ここでイベントをしたり、掃除をしたり、建物と主体的に接すると、建物に備わっている力にあらためて気づけそうです。

水田 これからここで移住者向けに、不動産探しからリノベーションまで手がける事務所をしようと思っているんです。ここ、ちょうどいい田舎なんです。のびのび子育てができて、熊本市内まで車で通勤できる。この場所を入り口に、こんな生き生きした生活ができるんだ! ということを発信していきたいですね。


「山ぼうしの樹」にあった、水田さんを模したドアノブ。
知り合いのアイアンの作家さんがサプライズでつくってくれたという。

私ごとで恐縮だが、自宅の床はミズタホームの仕様と同じく無垢のスギ材だ。「掃除は習慣にすれば苦にならない」というアドバイスに従って、自宅に戻ってすぐに床を水拭きしてみた。木のわずかな凹凸が手に直接伝わってきて、気持ちいい。これなら習慣にできるかもしれない。

暮らしを大切にする魅力、自然と共生する魅力を語る水田さんの話は観念的にも聞こえるのだが、実際に建物に触れてみると納得できることが多い。水田さん自身が日常的に、素材や樹木を手入れし、事務所やモデルハウス、「山ぼうしの樹」といった拠点に手を加え、さまざまな実践をし続けていることが、考え方に説得力を与えている。ミズタホームの家にもまた、水田さんの生活実感に基づく長年の研究成果が凝縮されているはずで、だから「おまかせ」でお願いしても、誰にとっても住み心地のよい家ができるのだろう。

ミズタホームが実現してくれるのは建物だけではなく、その場所で過ごす豊かな時間なのかもしれない。時間の流れとともに、家も、家族も、樹木も成長しながら味を増していく、そんな暮らし方へと住人を自然にうながしてくれそうだ。

 

ミズタホーム
https://www.mizutahome.com/

運営施設:山ぼうしの樹
https://www.yamabousinoki.com/


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆