くるみの木

暮らしを教えてくれたひと

住まいだけでなく、店舗、アトリエなど、そこで日々暮らす人たちの凝らす工夫は、住まいの設計をするうえで大きな手がかりになることがあります。愛媛県で建築設計を営む福岡美穂さんは、これまでに“暮らし”をテーマに活躍する達人たちの仕事から、設計の着想を得てきたと言います。このシリーズでは、福岡さんが“暮らしの達人”を訪ね、その根底にある考え方や信念をインタビューすることで、暮らしを設計するとは何か、考えるヒントを探しに出かけます。

Vol.2  他人の喜びが自分の喜び
石村由起子さん(「くるみの木」主宰)

福岡美穂さんによる、石村由起子さんへのインタビュー第2話。前回では、石村さんの美意識がブレずに手がける空間随所に見られる、その源となる原体験について教えていただきました。「くるみの木」を訪れると、空間の細部までこだわりが行き届いているのがわかります。今回は、これまで常に試行錯誤をしてきたというお店づくりをどのように続けて来られたのか、その信念をうかがいました。

 

お客さんの喜びを最優先

福岡 私が初めてくるみの木を知ったのは、8年くらい前です。お客さんからくるみの木みたいな家にしたいというオーダーをもらって、見に来たのが初めてです。それからも何度かお客さんとくるみの木や秋篠の森、鹿の舟には本棚のオーダーをしてくれたお客さんと訪れました。

 石村さんは、複数のお店を持ちながら、それぞれに石村さんの美意識が行き渡っているところがすごい。お店を運営していくうえで大事にしていることはありますか。

石村 私は店をやっているにもかかわらず、商売という言葉は好きではなくて、お客さまにも作り手にも喜んでいただけるようにしたいと常日頃から考えています。ショップで販売している暮らしの道具は「一生使ってください」という気持ちで選んでいます。それらはすべて自信をもっておすすめできるものであり、本当に美味しいと思える料理をお出ししています。空間もこだわりのひとつです。古くてもお掃除をきちんとしていたら、新しいものにも負けないのではないかと思います。

くるみの木

終始楽しいお話を聞かせていただいたインタビューに、福岡美穂さん(右)も大喜び。

福岡 お店を続けるために大切にして来られたことはどんなことでしょうか。

石村 お客さまに喜んでいただく、このことを第一に考えています。どなたもが楽しそうにくるみの木で過ごしているのを見ることは、私の喜びでもあります。

福岡 喜びというか楽しみというか。

石村 私たちがこうして店を続けていられるのは、お客さまが来てくださるからです。
 北海道からやっと来ることができたと言ってくださった方、長年通ってくださる方、親子三代で食事を楽しんでくださるご家族、いろいろなお客さまが来てくださいます。これは本当にありがたいことです。

福岡 ふつうの人は考え方が自分本位になりがちですから、他人に喜んでもらうということが自分の喜びになるとは、なかなかわからないかもしれません。

石村 私は、もし誰かにこれをしてもらったら私がうれしいから、きっとほかの人もうれしいかなって勝手に判断していろんなことをやっています。サプライズが大好きなんですね(笑)。

 

人もモノも大事にする空間コーディネート

福岡 石村さんの人に喜んでもらいたい、という気持ちでお店を続けていらっしゃるのですね。

石村 スタッフには、整理整頓の大切さもよく話します。店の場合、まず、お客さまが商品を手にとりやすいようにしますね。それから、店で紹介する商品は作り手の方からお預かりした大切なものですから、一つひとつを光らせてあげたい、といつも思いながらディスプレイしています。

「秋篠の森」入り口

「秋篠の森」入り口(写真=福岡美穂、2015年)

福岡 お店全体の空間だけでなく、商品のディスプレイにも同じことが言えるのですね。
 じつは、私も「秋篠の森」のオーベルジュに泊まったことがあります。中村好文さんの設計だと聞いて。私はふだん建築の設計をしているので、勉強のためにもぜひ泊まってみたいと思いました。そのときは、部屋の家具や窓などを計測しました(トップ写真)。とにかく素敵な空間でした。リネンから家具から、すべてに気を遣われているのを感じて、すごく感動しました。

石村 うれしいです。ありがとうございます。福岡さんの事務所は、「暮らしの設計室」というのね。

福岡 「くるみの木」に設計室が入っていたら、というイメージで立ち上げた設計事務所です。

石村 素敵ですね。空間とモノはつながっていますからね。道具を売っていたり、食事ができたりするような設計事務所があったらきっといいでしょうね。

福岡 ところで石村さんは空間コーディネーターとしてのお仕事もされていますが、石村さんが、空間をコーディネートする際に、意識していることはありますか。

石村 店で言えば、商品を売る際に、売れるものだけを置くということはしないように心がけています。売れるものばかりだとお客さまはワクワクしないでしょ? 魅せる、夢を見てもらうような商品も少しは置きたい。もちろん、売れないものばかり置くわけにはいかないけれど、このバランス感覚はとても大事だと私は思っています。

福岡 それは、住宅設計と同じですね。お施主さんをわっと驚かせるデザインは2割。あとの8割は、ふだんの生活になじむように設計します。

石村 実用がないといけないけれど、「わぁっ」という驚きも必要ですね。

 

>次回は第3話「これからの未来を見据えて」です。

福岡美穂  ふくおか・みほ

1979年愛媛県生まれ。幼い頃から父の転勤により、四国各地を転々とする。大学では哲学を専攻し、卒業後、高校の国語科教員を経て建築の世界に飛び込む。現在、「暮らしの設計室」主宰。暮らしに寄りそうおおらかな住まいを提案している。 Blog チャリと野菜生活ラボ

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