ミズタホーム

町の工務店探訪②

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.1  建物に学び、住んで伝える
熊本・ミズタホーム

熊本市を拠点におよそ年間7棟の、良質な木の家をつくり続けるミズタホーム。ここは社員6名(うち5名はご家族)という小さな工務店だ。しかし住宅をコンスタントに設計・施工しながら、古民家を再生した複合施設「山ぼうしの樹」を運営するなど、やっていることの幅は広い。今回は事務所、最近竣工した住宅1棟、そして「山ぼうしの樹」をご案内いただけるとのこと。本連載は毎回そうなのだが、じつに盛りだくさん! ありがたいことだが、取材が押してしまうと十分に写真が撮り切れないかもしれない。せめて先に外観だけでも撮らせていただこうと、熊本駅から車で10分ちょっとの事務所へと急いだ。

ミズタホーム

上写真/通りからみたミズタホーム。樹木に覆われ、建物の姿がよく見えない。
表題写真/ミズタホームの事務所正面。元は代表の水田さんの両親が営む医薬品の事務所だった建物を改装。
正面左の大木は、ここで幼木から大きく育ったという樹齢15年のクヌギ。

ミズタホームの拠点は、入り組んだ住宅街の中にある。路地を挟んで右手に事務所棟、左手に水田さんの自宅、正面に息子さん一家の住まいが並ぶ。看板もなく、事前情報がなければここが工務店だとはまず気づかない。

「入り口、どこ……? 駐車場は?」と前の道路を右往左往していると、ふらりと水田さんが出てきてくれた。

「少し早いんですが、いいですか?」
「どうぞ」

木のポストとカエルのオブジェ。玄関先の睡蓮鉢のビオトープ。(撮影=平塚桂)

木のポストとカエルのオブジェ。玄関先の睡蓮鉢のビオトープ。(撮影=平塚桂)

水田さんは、おだやかな笑みを浮かべて取材チームを招く。豊かな緑、カエルのオブジェが乗るポスト、睡蓮鉢のビオトープ、そして家の周辺を見守る水田さん。建物周辺の佇まいからもご自身からも、家や植物を丁寧に手入れして、暮らしを大事にしていることが伝わってくる。

家族で営む、優雅な仕事場

まずは事務所棟を見せていただく。玄関を入ると奥に打ち合わせ室がある。本、小物、レコードが棚にぎっしりと並ぶ。事務所というよりも趣味人の書斎という風情だ。しかしふと壁を見ると、「ほうき引き仕上げ」「くし目引き仕上げ」「のこめ仕上げ」「ちょうな仕上げ」などとキャプションが付けられている。ここは昭和中期に建てられた軽量鉄骨(プレハブ工法)の建物をリノベーションした場所で、空間が生きた素材サンプルにもなっているのだ。

ミズタホーム

いつも読書を楽しむという打ち合わせ室のソファで。奥の扉の向こうに執務室がある。

「ここでよく読書をします。時間を楽しむように、音楽も一曲ずつ大切に聴いています」と水田さん。暮らしを大事にしている方は、音楽の聴き方まで丁寧なのかと妙に感心してしまう。雰囲気や過ごし方があまりにも優雅なので、いつ、どこで仕事をしているのだろうと思ったのだが、よく見ると奥に執務室がある。図面の作成や事務系の仕事は、そこで行うという。「ここは整理できていないから、撮らないで」という言葉に、すべてが優雅で丁寧というわけではないようだと、少し安心する。

ミズタホームのスタッフは、木工や「山ぼうしの樹」の管理運営をしている森川瞳さんを除くと全員ご家族。水田さんが設計、1984年生まれの長男・雄士さんが現場監督を、妻・浩子さんと長女・有紀さん、雄士さんのお嫁さんである美穂さんが事務系の仕事を担っている。ここで働くみなさんの住まいは、事務所のまわりにある。職住近接だ。

息子さんが居住中の“モデルハウス”
から伝える、木の家の魅力

ミズタホーム

大きな吹き抜けのある「モデルハウス Bio」。

長男の雄士さんは、妻、子ども1人、犬1匹とともに、事務所近接の「モデルハウス Bio」に3年前から暮らしている。結婚してマンションに2年暮らしていたが、新建材が身体に合わず、モデルハウスとしてすでに完成していたこちらに越してきたそうだ。雄士さんは現場に出ていて不在だったので、水田さんにご案内いただいた。

「モデルハウス Bio」は吹き抜けを介して1、2階が一体となった、大きなワンルームの住宅だ。冬は薪ストーブ、夏は1台のエアコンで建物全体が快適になるという。1階にはリビングダイニングや水回りが並ぶ。2階には趣味室を兼ねた寝室があり、雄士さんの趣味の釣り道具がずらりと並ぶ一画もある。

柱、梁も床、壁も主な部分はスギ。だがそれぞれ表情が違う。人が直接触れる床は水田さんが「木のえくぼ」と呼んで偏愛している「節」のある材を、視線が行く壁にはすっきりとした柾目の板材を使い分けている。柱、梁は諸塚村のFSC®森林認証材*で、すべて葉枯らし乾燥+天然乾燥させた材料だ。

*FSC®森林認証材:NPO法人FSC(Forest Stewardship Council®:森林管理協議会)が適切な森林管理が行われていると認証した森林からの木材・木材製品であることが認証された材のこと。

窓は木製建具とアルミサッシを混ぜている。坪単価は60万円からスタートするというミズタホーム。すべて木製建具にすると高額になるので、モデルハウスとはいえ現実的な仕様で仕上げている。

「モデルハウスは、生活感を見せないと参考になりません。ここは実際に住んでいる家なので、木の家の良さだけではなく、マイナス面やそれにどう対応したらよいのかということを、実感を持って伝えられます」と水田さん。たしかに、夏はどのくらいエアコンをかけているかといった季節ごとの過ごし方や、日々のメンテナンスの方法、床や壁の傷のつき具合なども、直接確認できる。暮らしのイメージが湧くし、家を建てるうえでの不安も解消しやすそうだ。

「建物が先生だから、
お師匠さんは要らなかった」

ミズタホームの社長・水田和弘さん。

ミズタホームの社長・水田和弘さん。

事務所とモデルハウスはいずれも、無垢のスギ材を中心とする自然素材で構成され、環境と一体となった快適な空間だ。そこからはミズタホームが手がけた家でどんな暮らしができるか、明確なイメージが伝わってくる。一方で独特の家族経営を貫き、しかも建築は独学だという。水田さんはどうやって、このスタイルを構築したのだろう。

——水田さんは独学で建築を学んだとお聞きしています。なぜ建築に関わるようになったのですか?

水田 中学2年生のときに木の小屋を自力で建てたことが、建築に興味を持ったきっかけです。でも若い頃はまったく違う、珈琲豆を焙煎して喫茶店に卸す仕事をしていました。その仕事を通じて出会った工務店の社長の元で3年間、営業や現場監督の仕事をしてから独立しました。

——独立後、どんなふうに建築を学んでいったのでしょうか。

水田 独立したら、まずは名刺をつくって飛び込み営業ですね。門前払いをされることがほとんどですが、何かやろうと考えていたという方に当たることもあって、当時から付き合いがつづいているお客さんもいらっしゃいます。最初は小さなリフォームの仕事が多かったですね。リフォームというのは、人の仕事を見られる仕事です。大手ハウスメーカーさん、地域の工務店さん、大工さん……いろんな方の仕事をね。壁や床、天井をはがせば中身が見られるので、ずさんな仕事も、いい仕事も見られる。そこからいいなと思ったところだけ取り入れていきました。断熱材の入れ方も現場で見てきたからこそ、こだわっています。建物が先生になってくれたから、お師匠さんが要らなかったのです(笑)

——なるほど。解体して人が建てた家のつくりを見ることができるのは、リフォームの特権なのですね。それにしても建物が先生というのにはハッとしました。設計もそうやって勉強されたんですか。

水田 そうですね。実際に建物を自分の目で見ていいと思ったところは参考にしますが、あまり人が描いた間取り図を見たりはしません。間取りは標準化、規格化しないで、毎回初心で取り組むようにしています。

——1棟、1棟を丁寧に設計されていると、時間もかかりそうですが……。

水田 設計は朝、集中型でやっています。朝4時に起きて、3、4時間やれば結構進みます。鳥より早く起きて、彼らが庭にやってくるのを迎えるのが楽しいんです。仕事は午前中で終わらせて、午後は自由時間にしています。1日が2回あるような感覚になりますよ。

——鳥より早起き! 時間の使い方も、見える風景も変わりそうですね。ところで工務店はご家族で経営されているようですが、外部にも信頼できる方がいらっしゃるのでしょうか。大工さんは、どんな方にお願いしていらっしゃるんですか?

水田 熟練から若い人まで、幅広いですね。社寺建築ができる大工もいます。気心が知れた人ばかりです。うちの建物は建具をきれいに引き込む、断熱材をしっかり効かせるといった、おさまりを考える必要がある工事が多いから、手間を惜しまずいい仕事をしたいという人に限られて来るんです。

空間の質、素材、おさまりに定評のある家づくりを、いかに独学で確立させたのか。先生はリフォームで関わった家という、意外な、しかし納得の答えが返ってきた。そして建物だけではなく暮らしにもこだわりが感じられる水田さんだが、お話をうかがうと、朝4時起きで設計に集中するという、独特のライフスタイルも明らかになった。次回は家づくりの実例を紹介していく。


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆 

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