[びお考] 赤ちゃんにやさしい家

ネットには、あまりにも多くの情報が溢れています。住まいのことも例外にあらず。膨大な情報の波にまぎれて、大切なことを見失っていないだろうか。そんな疑問から、「びお」のもつ、住まいと生活の視点からいろんな人に聞いてみます。

 

「家を建てる理由ランキング」で、常に上位にあるのが「子どもができる(できた)」という理由です。それって、今の住まいが赤ちゃんにとって良くないってこと? 狭いから? 暑いから? 寒いから?
せっかく赤ちゃんのために住まいを考えるのなら、どんな家がいいんだろう。
赤ちゃんが感じる快適は、私たち大人と同じなんだろうか?
そんな疑問をいだいて向かったのは、北海道・札幌市立大学。この大学では、デザイン学部と看護学部が併設されているため、赤ちゃんにとっての住まいを「建築環境デザイン」と「助産」という両テーマから同時に考えることができる環境にあります。ここなら問いを解くヒントが得られるのではないか。そんな予感を持って、三人の先生を訪ねました。

Vol.8  赤ちゃんにやさしい家

はじめに
ここまでのお話で、赤ちゃんにやさしい家の像がだいぶ見えてきましたね。オートマチックではなし得ない、人が介在してはじめて生まれる世界。いよいよ今回が最終回です。今回は、聞き手の私たちが手がけている「びおソーラー」が、赤ちゃんにやさしい家、の一手になるのでは、と、専門家に意見を聞きました。

 

佐塚 お話を伺ってきて、赤ちゃんに快適な家、やさしい家、といっても、絶対的な値というのは導きにくいんだな、と感じました。特に親の感覚が、赤ちゃんに対する刺激に対して、非常に大きな影響を持っている、もっというと非常に支配的、ということが改めてわかりました。
一方で、「授乳クッションがないと…」というタイプの人は、部屋の温度を例えば25℃に保ちなさい、と言われたら、なんとか25℃に保とうとして、27℃になっちゃったりしたら、ノイローゼになってしまうんじゃないかな。

大友 赤ちゃん用のミルクの量の指針が缶に書いてあります。それを見て、そこまで飲めてないんです、とか、それ以上飲んじゃっているんですけど、大丈夫でしょうか、という相談もあります。
まあ、それで元気ならいいんじゃないかと思うんですが、「個」をより見られるように助産師は支援をしたいですね。

佐塚 スペックを見るけれど、眼の前の事実はわからない、ということですね。建築の方も、この能力の空調があるから大丈夫、ではなくて、建築を使いこなす力がほしいなあと。

斉藤 そうそう。

佐塚 僕はやっぱり、物事って、訓練して上手になっていく、ということが大事だし面白いと考えています。同じ「食事の準備」でも、レトルト食品をいくら温めても、料理の技術は向上しないけど、料理をしてみれば、なにかしら技術は向上する。子育てだってそうですよね。

渡邉 いやあ、そうだと思う…。日頃、どれだけ赤ちゃんと接して、見ているか、それが積み重なれば自信になるけれど、数値は、その子のために決められているわけではないから、いつも振り回されなきゃいけなくて。

斉藤 日本人って特に、「標準スペック」が好きだよね。標準スペックからどのぐらい離れたか、異常かもしれない、とかいうこともやたらに気にするし。

大友 一生懸命なんだけど、本とかネットとかばかり見て、なんか違う、違う、と。肝心の赤ちゃんを見ないんじゃ困りますよね。

暖房しながら換気をする

佐塚 これは僕たちが取り組んでいる「びおソーラー」なんです(パンフレットを取り出す)。赤ちゃんにやさしい家、のひとつの解になるかなと思って。

太陽の住む家

渡邉 あら、可愛らしい…。

佐塚 屋根や壁にあたる太陽の熱をパネルで受けて、空気をあたためて、床下に取り入れます。取り入れられた空気は、今度は床下のコンクリートをあたためます。それがゆっくりと放熱して、室内をあたためる、という仕掛けです。
せっかく昼間に太陽の熱が屋根や壁にあたっているので、それを時間差で使おう、というものです。

 

外気温は昼間にあがって、それに伴って室温もあがってきます(グラフ1)。

赤ちゃんにやさしい家

 

 

これを断熱強化すると、熱が家の外に逃げにくくなって、全体的に室温が高くなります(グラフ2)。

赤ちゃんにやさしい家

 

 

これを、コンクリートのように、熱容量があるものを加える、ようするに貯めるところを作ると、室内温度はあがりすぎずに、室温の振幅はありながら、それほど大きくなくなります(グラフ3)。

赤ちゃんにやさしい家

 

 

それに夜間断熱、断熱雨戸などを加えると、夜の放熱が減り、室温変動はさらに緩和されます(グラフ4)。

赤ちゃんにやさしい家

でも、これはあくまで緩和であって、ピタッと一直線、均一になるのはよくないだろう、と思っています。

今日はリズムの話がたくさん出ましたが、まさに、これもリズムの話です。ある程度は外気の環境と応答しつつ、過酷な環境は緩和する、ということで、振幅、刺激をつくってリズムを与える。そういうのが、赤ちゃんにやさしい家のひとつになるんじゃないのかな、と考えています。

一同 そうですね〜。

佐塚 温水式の床暖房ほど温度があがらず、ほどよい温熱感になるんです。

斉藤 あたたかすぎる床に赤ちゃんを寝かせたら、汗かいちゃうよね。冷たくても困るけど。

佐塚 あとは、かなりの量の空気が、あたためられながら室内に入ってくる、というのが特徴です。結果として、あたたかいのに換気にもなる、というしかけです。

斉藤 面白いですよね。

大友 北海道でもできるんですか?

佐塚 地域によって差はありますが、全国どこでも使えます。しくみはかなりローテクですが、高精度なシミュレーションプログラムがあるので、事前に効果の予測も出来ますよ。
大友さん、お住まいをこれから考える、ということなので、ぜひおすすめします。

この日の出会いが、いつかエポックな出来事に。

佐塚 今日はどうもありがとうございました。デザインと助産、という、一見遠い世界のことが、実は密接に関わっていることがわかって、ああ、なるほどな、ということばかりでした。

斉藤 家も赤ちゃんも、入れ子構造で考えたらまったく同じですね。それから、助産師は妊婦さんの身体に触れる仕事、というのがいいフレーズだよね。

渡邉 いいフレーズがいっぱいでましたね。実感が伴わない生活の世間に、少しでも風穴が開けばいいですよね。

大友 はじめてこのお話をいただいたとき、どうなることかと思ったんですけど、こういうことで驚かれるんだって、逆に驚くところもありました。

斉藤 今度建築の授業で赤ちゃんの話をしていいですか。いや、話をしにきてください!

佐塚 建築環境学と助産学のこの出会い、何年後かに、今日のこの企画がエポックだった、となるかもしれませんね。これからも楽しみです。どうもありがとうございました!

(完結)


佐塚昌則  さづか・まさのり

1971年静岡県生まれ。町の工務店ネット常務理事/手の物語常務取締役。町の工務店ネット発足当初から、地域工務店と共に歩み、現在は「自然室温で暮らせる家」を伝え歩く。趣味の料理をしているときが、心が一番落ち着くとき。

旬な読みもの

月1・二十四節気毎、こよみで読む連載コラムです。

ほぼ日刊特集

ほぼ毎日、住まいづくりのヒントをお届けします。