赤ちゃんにやさしい家

[びお考] 赤ちゃんにやさしい家

ネットには、あまりにも多くの情報が溢れています。住まいのことも例外にあらず。膨大な情報の波にまぎれて、大切なことを見失っていないだろうか。そんな疑問から、「びお」のもつ、住まいと生活の視点からいろんな人に聞いてみます。

 

「家を建てる理由ランキング」で、常に上位にあるのが「子どもができる(できた)」という理由です。それって、今の住まいが赤ちゃんにとって良くないってこと? 狭いから? 暑いから? 寒いから?
せっかく赤ちゃんのために住まいを考えるのなら、どんな家がいいんだろう。
赤ちゃんが感じる快適は、私たち大人と同じなんだろうか?
そんな疑問をいだいて向かったのは、北海道・札幌市立大学。この大学では、デザイン学部と看護学部が併設されているため、赤ちゃんにとっての住まいを「建築環境デザイン」と「助産」という両テーマから同時に考えることができる環境にあります。ここなら問いを解くヒントが得られるのではないか。そんな予感を持って、三人の先生を訪ねました。

Vol.5  刺激でリズムをつくる

前回は、円山動物園のオランウータン舎のビフォー・アフターを通じて、空気温度だけでなく、放射がとても重要な事を理解できました。今回は、もうひとつ大事なこと、生活のリズムをどうつくっていくか、ということを聞いてみます。
産まれたばかりの赤ちゃんの生活リズムは、私たち大人とは違っています。それを大人に近づけていくのは、外部からの刺激であり、その刺激の振幅です。だんだん核心が見えてきた気がしますよ。

 

斉藤 ヒトはみな、睡眠と覚醒をくりかえすリズムを持っていますが、赤ちゃんって、刺激を受けながらリズムをつくっていく大事な時期ですよね。この時期の刺激が、のちのちどう影響するんだろうか。
20年ぐらい前に、鼓膜温を測る温度計が出はじめのころに、それを使って、ある実験をやったんです。お医者さんにいわせれば、鼓膜温じゃなくて直腸温じゃなきゃダメだ、って言われちゃうかもしれませんが。横浜で、20人ぐらいの「冷房が大好きでその中で過ごす時間が長い大学生」の群と、「冷房は苦手で風通しのよい中で過ごす時間が長い大学生」の群の鼓膜温を測って比較してみたことがあるんですよ。

体温変化には個人差があるんだけど、平均すると、「冷房が大好きで長く過ごす」群が「冷房が苦手で通風で長く過ごす」群より鼓膜温が0.5℃ぐらい高かったんです。これは、冷房で長く過ごす人は、通風で過ごす人よりも発汗機能が十分に働かないことで、周囲に熱を捨てることができず、結果として鼓膜温が0.5℃高く表れたのではないかと。

当時僕が想像したのは、冷房好き、冷房嫌いによる鼓膜温の差は1年、2年でできるようなものじゃなくて、ひょっとすると赤ん坊のときから過ごす環境によって変わるのかなって? そういう話は聞いたことはないですか?

大友 いえ、それは私たちも知りたいです。

佐塚 赤ん坊のときは、睡眠と覚醒のリズムが月の満ち干きと一致していて、それがだんだん24〜25時間の概日リズムになる、と聞いたことが有りますが、どういうふうに変わっていくんでしょうか。

渡邉 それもおかしくなってきていますね。親の生活が昼夜の区別がなくなっていて、夜も明るかったりしますから、リズムがつきづらいですよね。

斉藤 リズムの視点で語っている話って、建築にも少ないんですよ。

大友 一ヶ月検診でお母さんに話をするのは、「朝起きたら赤ちゃんの寝ている部屋のカーテンを開けて、今着ているものをパジャマだと思って着替えをして、朝のスタートだよ、とわからせてくださいね」と伝えているんです。

斉藤 それは重要ですよね、刺激でリズムをつくるのに。
想像するに、リズムって、助産の分野ではお母さんたちにお伝えしている感じがします。でも建築は、工務店や建築家が、それを住まい手にちゃんと伝えているか、僕ら研究者がそういうことの重要性を言っているか、というと、エビデンスを出すことが簡単ではないので言い切れてはいないんだけど、絶対あると思うんだよね。その研究をやらなきゃなあ、というのが僕のテーマです。

佐塚 「建築は凍れる音楽だ」という言葉がありますが、いや、凍ってはいないんじゃないか、と思いますよね。
家の室内は、外気温と少しずれて温度変化があります。それをどのぐらい緩和して、どのぐらい残すのか。まったく緩和してしまうと、均質な別世界になってしまうし、一方で何もしなければ、外と同じ環境になってしまう。
断熱や日射遮蔽、日射取得をどこまでやるか、という見極めが大事ですが、あんまりこういうことは語られない。

大友 リズムという観点では、沐浴も、いつも同じ時間帯に入りましょう、とお話しています。
私たち大人も、お風呂にはいってすぐは寝つけないように、赤ちゃんも入浴して身体が火照って、ミルクを飲んでお腹いっぱいでは寝付けませんから、赤ちゃんを寝かせたい2〜3時間まえには沐浴を済ませて、授乳を済ませて、静かな環境で寝る、そして朝はカーテンを開けて着替えをして、朝のスタートの感覚を身につけるように、という話をしています。

斉藤 沐浴にしても着替えにしても、強弱はあるにしても、刺激じゃないですか。それはリズムをつくる刺激、という言い方になるでしょうね。それが、住まいの環境の整え方にも必要です。住環境にとっては、カーテンを開けるとか、窓を開けるとか。それが大事だと思いますね。

大友 一ヶ月すぎると、外気浴をさせましょう、と勧めます。最初は窓を開けて、外の刺激を感じて、やがて外に出て、時間を徐々に増やし得ていきましょう、とお話しています。

斉藤 面白いね、これ。
赤ちゃんが育っていくプロセスと、家の住まい方のプロセスが似ていて。もちろん計画の段階も大事なんだけど、たとえば昔のラジオの(聞きたい放送局の周波数に合わせる)チューニングみたいに、手と耳を使いながら「この辺だな」という感覚が大事じゃないですか。いまの学生は何を言っているのか、わからないか(笑)

佐塚 僕らも、普段から言っているのは、住まいの「モードの転換」で、それはデジタル的な転換ではないんです。
たとえば引き戸のように、「少し開けておく」というものや、蔀戸(しとみど)は今、あまりないですけど、すだれのように曖昧なものだとか、あるいはすだれを出す、出さない、ということだとかも含めて、人間が建築に対して働きかけるか、ということなんです。チューニングですね。
住まいという入れ子構造の中では、赤ちゃんが最小のチューニング対象なんだなあ、とお話を伺って強く思いました。

赤ちゃんにやさしい家

斉藤 体温調節には自律性と行動性があって、僕ら大人は両方の体温調節ができるけど、赤ん坊は行動性体温調節ができないから、僕らがそれを読み取りながら、刺激を与えてあげることで、結果として行動性体温調節のポテンシャルを引き出していくことになるんじゃないかな。
日差しをちょっと入れる、強すぎたら弱めてあげる、そうすると刺激に対する幅ができると思うんですよね。だんだんチューニングできるようになっていくかもしれない。そういう感じでみると面白いね。

佐塚 いわゆる「室温」が、如何に赤ちゃんのことにコミットしていないかがよくわかりましたね。

斉藤 そうですよね。繰り返しになりますが、表面温度がベースで、さらに夏は気流が大切なんですよ。室温(空気温度)は2次的なもの。恒常性を保つための設備という選択肢はもちろんあるんだけど、リズムが大事だ、というのは、僕らの身体の中で起こる現象を考えたらやっぱり確実にいえるんだから。

渡邉 知的な発達というのはみんな気にして、いろいろグッズを買ったり小さいうちからお勉強をさせたりするんだけど、やっぱり身体をつくらないと、というのは確かにありますよね。

佐塚 何かを買わなくても出来ること、というのもたくさんあるんだけど、世の中には「これを買え」という情報だらけですよね。

渡邉 なんだか、それがなかったら駄目になっちゃうんじゃないか、という強迫観念にとらわれてしまったり。

佐塚 授乳クッション、あれば便利だけどなくても子は育ちますもんね。

斉藤 熱環境の適応範囲が広がるようなリズムをつくって、その幅が広ければいろんなことに対応できる、イライラしない子になりそうな気がするなあ、イメージだけど。

まとめ
振幅でリズムをつくることが生きるチカラ、なんだか元気が出てくるようなお話でした。授乳クッションには別に恨みがあるわけではありません。やり玉にあげちゃってゴメンナサイ。
次回は「赤ちゃんを低体温から守れ!」10月6日公開予定です。


佐塚昌則  さづか・まさのり

1971年静岡県生まれ。町の工務店ネット常務理事/手の物語常務取締役。町の工務店ネット発足当初から、地域工務店と共に歩み、現在は「自然室温で暮らせる家」を伝え歩く。趣味の料理をしているときが、心が一番落ち着くとき。

旬な読みもの

月1・二十四節気毎、こよみで読む連載コラムです。

ほぼ日刊特集

ほぼ毎日、住まいづくりのヒントをお届けします。