[びお考] 赤ちゃんにやさしい家

ネットには、あまりにも多くの情報が溢れています。住まいのことも例外にあらず。膨大な情報の波にまぎれて、大切なことを見失っていないだろうか。そんな疑問から、「びお」のもつ、住まいと生活の視点からいろんな人に聞いてみます。

 

「家を建てる理由ランキング」で、常に上位にあるのが「子どもができる(できた)」という理由です。それって、今の住まいが赤ちゃんにとって良くないってこと? 狭いから? 暑いから? 寒いから?
せっかく赤ちゃんのために住まいを考えるのなら、どんな家がいいんだろう。
赤ちゃんが感じる快適は、私たち大人と同じなんだろうか?
そんな疑問をいだいて向かったのは、北海道・札幌市立大学。この大学では、デザイン学部と看護学部が併設されているため、赤ちゃんにとっての住まいを「建築環境デザイン」と「助産」という両テーマから同時に考えることができる環境にあります。ここなら問いを解くヒントが得られるのではないか。そんな予感を持って、三人の先生を訪ねました。

Vol.4  円山動物園のオランウータン

前回まで、赤ちゃんの胎内環境での温度について話をしていましたが、ここで唐突に、斉藤先生へ「オランウータンの話」を振りたいと思います。斉藤先生の十八番の、面白くてわかりやすい話です。

佐塚 赤ちゃんとちょっと離れますけど、斉藤先生の「オラウータンの話」をご紹介いただけますか。

渡邉大友 オランウータン???

斉藤 2007年位札幌市円山動物園の動物舎をリニューアルする、という仕事に関わったときの話です。
見た目を良くする、ということも大事ですけれど、動物は、赤ちゃんと同じで言葉をしゃべらないから、どういう温熱環境にしたらいいか、ということを考えました。
やっぱり表面温度でコントロールすることが大事だろうな、と思ったんです。
エアコンからぶわーっと空気が吹き出すような環境にいると、オランウータンも肌がパサパサになって割れてるし。

一同 えー! (笑)

斉藤 それはダメだな、と思ったんで、表面温度をコントロールする放射式に変えて、生活のベースとなる熱環境をデザインしたんですよ。そうしたら毛並みが良くなって。
僕は毛並みのことには気づかなかったんですけど、視察に来た別の動物園の人が、「円山のオランウータン、毛並みいいね、どんな餌をあげてるの?」と聞いてくるんです。
でも餌は変わっていなくて、環境が変わっただけなんですね。
糞からストレスがわかるのですが、リニューアル前後でチェックをしたら、すごくストレスが減ってるんですよ。これは嬉しかったな。
だから、やっぱり環境はすごく大事ですね。

オランウータン-円山動物園

施設改修前のオランウータン。札幌なのにどうも暑いようで奥の日陰でじっとしています。

改修前のオランウータン舎。地表面温度が50度以上、強い温放射が確認できます。これじゃ可哀想。

オランウータン-円山動物園

改修後、すっかり毛並みもよくなり、リラックスしています。

地表面からの温放射を小さくすることで オランウータンにとって快適な環境に変わりました。

佐塚 たとえば25℃がいいよ、と一口に言っても、「いい25℃」と…

斉藤 「悪い25℃」があるということです。あとはオランウータンも、飼育員が様子を見て、ここは水を撒いて蒸発があったほうが気持ちいいなとか、包むものがあったほうがいいな、とか判断しています。
赤ん坊も、お母さんがしっかり五感をつかってみてあげることですね。

渡邉 北海道とはいえ、赤ちゃんに夏に帽子も被せずに外に出ていたりだとか、冬のかなり着込んで寒いような日に、ズボンから素足が見えていたりとか。
普段、調整された環境にいるお母さんの感覚が、そのまま赤ちゃんの服装にも出ているのかもしれない。

斉藤 冬、カーテンをしても、その下から吹き出してくる冷気をドラフト(コールドトラフト)と言うのですが、ドラフトは、室温を上げれば上げるほど、起こりやすくなる。エアコンとかファンヒーターは、空気を直接暖めるから、上下温度差がついて、ジェットコースターのように下がってくる。お掃除が大変とかそういうのもあるんだけど、カーテンをちゃんと床に接触させておけば、ドラフトは一応抑えられる。
そういう感覚を持っているお母さんは、赤ちゃんの靴下とかそういうことも大事にすると思うんだけど。どうも、いまの世の中、目に見える視覚情報に走り過ぎで、目に見えない世界に対する感覚が鈍いんじゃないかな。

佐塚 たとえば、ある服はダウンが入っているから暖かい、ということになっていても、ちゃんと着ていなければ当然暖かくないわけで、でもその服は暖かい服なのだからそれでよし、となりがちで、それは住宅でも同じようなことが起きていますね。プロダクト(製品)に頼りすぎて、使い方を考えなくなってしまうようなことが。

大友 お母さんたちの中でも、それがないと出来ない、というようなことが多くて。
たとえば、授乳するときに、抱きまくらのような授乳クッションを置いて授乳する、ということを知ると、「授乳クッションがないんだけど、どうしたらいいですか」という質問が出るんです。
バスタオルでもなんでも巻いて、挟んであげる、ということでもいいんですけど。代替というか、そういうのが苦手で。「クッションがないから外出できない」という真剣な質問が来たりします。

渡邉 市販のものは、結局はぴったりサイズがあうわけではないから工夫して使えばいいと思うんですけど、とにかく授乳クッションの上に乗せるんだ、これがないとダメだ、という風になってしまうんです。

佐塚 まさに同じようなことが起きているわけですね。

まとめ
ベースとなる熱環境がよくなればストレスもなくなって、肌もつやつや、ということをオランウータンが証明してくれました。一方で、ヒトは製品に頼りすぎて、生きるチカラを失っているのかな? ちょっと不安になりつつ、次回「刺激でリズムをつくる」は、10月5日公開予定です。


佐塚昌則  さづか・まさのり

1971年静岡県生まれ。町の工務店ネット常務理事/手の物語常務取締役。町の工務店ネット発足当初から、地域工務店と共に歩み、現在は「自然室温で暮らせる家」を伝え歩く。趣味の料理をしているときが、心が一番落ち着くとき。

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