工務店の魅力を伝える仕事

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魅力ある場所に惹かれて

村上比子「風の森」「風びより」

私が前職の建築コンサルティング会社に勤めていたときのこと。面白い工務店があるからと紹介されて訪ねた1つの工務店が、「風の森」にある浜松建設でした。
「風の森」とは地域の名前ではなく、長崎県諫早市の中心街から車で30分ほど離れた山間(やまあい)の、海を見下ろす約3000坪の斜面地に広がる森にある、浜松建設がつくった複合施設です。そこにはカフェや雑貨店、洋服屋さんなどの店舗が、森の中にポツリポツリと点在し、木や草花を楽しみながら散策ができるようになっていました。

 

村上比子「風の森」「風びより」

風の森のエントランス。社屋は木々に囲まれ、森の中にある。

 

落葉樹のコナラの木やトネリコ、小さなビオトープの池には水草やトクサ、ツワブキが生えており、海からの風、鳥の鳴く声。両腕をあげて背伸びをしてしまうほど本当に気持ちのよい場所に、私は「こんな隠れ家のような場所があったんだ!」と感動しました。と、同時に「なぜここに?」「工務店と森が結びつかない」。そう思ったのです。たしかに面白い工務店です。だって、工務店として仕事をするなら、人から目につくところ、立ち寄りやすい町中、住宅地からほど近い場所にあるものなのですが、まったくその考えから外れ、近くの駅までは車でないと行けない、街からは離れているし、看板や、誘導表示もない。そんな場所に、森の木々に隠れて建物が建っているのですから。

 

村上比子「風の森」「風びより」

風の森の中には、小屋のようなショップが点在する。写真=近藤泰岳

 

でもその意味が徐々にわかりました。代表の濱松社長に尋ねると「(気持ち)よかでしょう?」と「風の森」をつくったときのことを話してくれました。私は「建築屋がなぜ森なんですか?しかもこんな田舎に?」と尋ねると、「工務店にはお客さんが気軽に遊びに来ないでしょう?」「うちにはカップルや家族が手を繋いで森を歩いとるから」と笑いながら答えてくれました。「皆が知らないような隠れ家のような場所の、その魅力に惹かれませんか?」という社長からの問いかけに私はハッとしました。この工務店は、「魅力をつくっている」のだ、と気づいたのです。
けれどこの時の私はまだ、これから毎日この森に通うことになるなど、想像もしていませんでした。

つづく

著者について

村上比子

村上比子むらかみ・ともこ
「風の森」「風びより」の総括マネージャー

九州造形短期大学(現、九州産業大学造形短期大学部)卒業後、大手設計事務所勤務。企画コンペ専門の実務を経験し、工務店、コンサルティグ会社を経て、現在、株式会社浜松建設の企画運営マネージャーとして広報企画を担当。「風の森」「風びより」の運営ブランディングを行う。「大工の手づくり家具・モクモク」のデザイナーでもあり、「風びより」「風の森」で使われている家具やデザインをモクモクオリジナル商品として提供している。

連載について

工務店には広報が重要とわかりながらも、未だモデルケースや方法論などは明確にはない状況です。広報担当者は「孤独」に追い込まれていると『新建ハウジング vol.770』は伝えています。長崎の工務店で広報企画を担当されている村上さんのお仕事は、まさにこのテーマに対する一つのお手本のようでもあります。毎日長崎県内を縦横無尽に移動し、活躍されている村上さんが、これまでどのように広報の仕事を担当されてきたのか、教えていただきます。