[びお考] 赤ちゃんにやさしい家

ネットには、あまりにも多くの情報が溢れています。住まいのことも例外にあらず。膨大な情報の波にまぎれて、大切なことを見失っていないだろうか。そんな疑問から、「びお」のもつ、住まいと生活の視点からいろんな人に聞いてみます。

 

「家を建てる理由ランキング」で、常に上位にあるのが「子どもができる(できた)」という理由です。それって、今の住まいが赤ちゃんにとって良くないってこと? 狭いから? 暑いから? 寒いから?
せっかく赤ちゃんのために住まいを考えるのなら、どんな家がいいんだろう。
赤ちゃんが感じる快適は、私たち大人と同じなんだろうか?
そんな疑問をいだいて向かったのは、北海道・札幌市立大学。この大学では、デザイン学部と看護学部が併設されているため、赤ちゃんにとっての住まいを「建築環境デザイン」と「助産」という両テーマから同時に考えることができる環境にあります。ここなら問いを解くヒントが得られるのではないか。そんな予感を持って、三人の先生を訪ねました。

Vol.2  おむつから熱環境を考える

斉藤雅也先生、大友舞先生、渡邉由加利先生との座談会第2回。前回は、話し手のみなさんの自己紹介を通じて、赤ちゃんにとってやさしい家を考える時には、お三方のご専門の「環境デザイン」と「助産」というテーマから同時に探ることで大きなヒントが得られそうだと確信を得ました。今回はいよいよ本題に入ります。

 

赤ちゃんと住宅は同じ?

佐塚 ご紹介したように、熱環境を扱われる斉藤先生と、助産の現場に立たれていた大友先生の、それぞれの視点を通じて、赤ちゃんにやさしい家を探っていきましょう。あまり難しい話ではないところから入っていきたいのですが。

大友 たとえば、おむつを替える、という行為は、汚れたから替える、とみなさん思われますよね。
それもとても大事なのですが、周囲におしっこなどがつくと、蒸発して熱が奪われて低体温になりやすいんです。だから、おむつが汚れたら、衣服が濡れたらこまめに替えてくださいね、とお伝えしています。

斉藤 体重に対しての体表面積の割合が大人よりずっと大きいから、冷えやすいんですよね。それにしても、赤ちゃんのケースはまるで住宅の状況と同じですね。
たとえば緑のカーテン、これは日射遮蔽の目的もあるけれど、蒸発面積を増やす、という狙いがあります。すだれでも日射遮蔽になるけれど、緑のカーテンは蒸散することで熱を奪うから、よりいいわけですよ。
夏の住宅とちがって、赤ちゃんにしてみると、蒸発が増える、ということは、逆に温度が下がって危険でもある。

佐塚 いきなり核心ですね。人間の大人なら、服を着たり脱いだりあるいは冷房・暖房をつけたりと、自分で調整できるけれど、建築は、一般的には自ら温度調整をすることはないし、赤ちゃんも自らの調整はできないわけですよね。

斉藤 介助が必要、ということですよね。これも住宅と同じ。

佐塚 私は子どもが二人とも成人していて、赤ちゃん時代の子育てというのは、もうずいぶん前の話なんですけど、当時あまり熱のことを強く考えたことがなかったなと。
もちろん寒くないほうがいい、ということぐらいは思っていましたけど。暑いかどうか、ということはあまり意識をしなかったんです。

最近になって、能動汗腺は2歳児ぐらいまでで決まってしまう、という話をよく聞くようになりました。

能動汗腺とは

汗腺には、形態的には汗腺でありながら、発汗をしない汗腺と、実際に汗を分泌する能動汗腺があります。生後2年の環境によって、汗腺が能動化するか、しないかが決まるといわれています。
幼いころの環境で、汗のかきやすさが変わってくる、というわけです。発汗というのは体温調整に欠かせない機能ですから、平たくいえば、小さい頃の過ごし方で、体温調整が得意になったり苦手になったりする、といわれています。だから、暑くなくする、寒くなくする、というだけがいいわけではありません。

 

斉藤 蒸発で冷えるのは危険な面もあるけど、汗をかく環境をつくってあげることは大事だと思う。バランスが大切だよね。

佐塚 建築環境と助産の意外な共通点が、はやくも見つかりました。自ら調整できない赤ちゃんを、建築を、どんな風に考えたらいいのでしょうか。

入れ子構造で考える

佐塚 今日のために久しぶりに育児雑誌なども読んで予習してきました。
夏に赤ちゃんとどう過ごすか、という記事があり、夏は25~28℃ぐらいにしておこう、一晩中エアコンをつけておいていいですよ、という話が出ていて。
暑い時期は外遊びも行かずに、エアコンの利いた家にいるのがよいですよ、と。それは果たしていいことなのかな、と思うのですが。

大友 それって雑誌を作っている東京・関東の視点ですよね。北海道という視点で見ると、冷房を設置している家自体が、そもそも少ないですから。

斉藤 そうですね、札幌で三割ぐらいですかね、冷房の普及率は。この10年ぐらいで伸びてきてはいますけど。
札幌でも、夏の昼間はもちろん暑いけれど、東京のように、夜は熱帯夜、ということはなくて、それなりに温度は下がります。人や家のつくりにもよりますが、つらくて眠れない、ということはない。日中上がった温度も夜には下がるので、リズムが出来ています。

佐塚 そうか、そもそもエアコンがないのに、全国一律のような話を聞いてしまって、うかつでした。エアコンはいったん置いておきましょう。赤ちゃんが本当に快適な室温、これは赤ちゃん本人に聞けないのですが、どう考えればいいのでしょうか。

大友 テキスト上は、24から26℃、湿度50~60%、という風になっていますね。

佐塚 そうすると、大人が一般的に快適だ、というあたりですね。

斉藤 オフィスなんかの空調の範囲も、そのぐらいにしましょう、という設計の指標があるんです。もちろん赤ちゃんに対しても間違ってはいないとは思いますが、健全な発達というプロセスを考えたときに、よい温度範囲というのがある気がします。でも、僕自身は、やはり空気の温度よりも、表面温度のほうが、特に赤ちゃんにとっては、成人よりも相当影響が強いのではないかと思いますね。
あとは当然だけど、着ているものの影響が大きい。

大友 着ているものは、親の影響が大きい気がします。親が暑がりだったら赤ちゃんも薄着、冬なのに肌着一枚だったり、逆に親が寒がりの場合は、室内でもミトンをはめていたり。

佐塚 親の体感をそのまま反映する以外に、なにか赤ちゃんの状態を見る方法はあるのでしょうか。

大友 手足を触ってみて、冷たければ一枚増やしましょう。

佐塚 やっぱり触れて感じるのが大切なんですね。

渡邉 触ってみるのはもちろんですが、温度計は、必ず赤ちゃんが寝ているそばに置くようにお母さんに伝えます。部屋の中の他の場所ではなくて、寝ているところ。

佐塚 部屋に温度ムラがあったら、大人のいるところは暖かいけど、赤ちゃんが寝ているところが寒い、ということはありがちですもんね。でも、空気の温度だけではわからないと、斉藤先生がおっしゃっていましたが。

斉藤 服を脱ぎ着させるというのは、体の皮膚表面の温度を調整している、ということですよね。空気温度ではなくて。大人もそうですが、自分でコントロールしているのは表面温度なんですよね。
エアコンで空気の温度をコントロールしますが、それを除けば、汗を拭くとか、おむつを替えるとか、それもみんな表面温度のコントロールです。そういう風に理解すると、衣服があって、保育器があって、保育器がなければ建築の壁の表面があって、という風に、入れ子構造になっているわけですね。マトリョーシカのように。
建築は、壁、床、窓だとか、周りの樹木をどうするか、といったことをやるわけですが、赤ちゃんにとっては、さらに保育器や衣服といったことを調整しているわけです。

斉藤先生から、「入れ子構造」の概念が示されました。そして大切なのは空気温度だけではなくて、表面温度ということも。これは大切なポイント。覚えておいてくださいね。

つづく


佐塚昌則  さづか・まさのり

1971年静岡県生まれ。町の工務店ネット常務理事/手の物語常務取締役。町の工務店ネット発足当初から、地域工務店と共に歩み、現在は「自然室温で暮らせる家」を伝え歩く。趣味の料理をしているときが、心が一番落ち着くとき。

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