風の森

町の工務店探訪①

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。

Vol.1  カフェや雑貨店が集う「風の森」を訪ねました
長崎・浜松建設

注文住宅を中心に、リフォームや店舗デザインなどを手がける工務店・浜松建設。同社が際立って個性的なのは、本社が森の中にあることだ。長崎県の中心部、諫早市。JR諫早駅から車で20分あまり。「風の森」と名付けられたそこには事務所やモデルハウスのみならず、カフェや雑貨店、洋服店などが点在している。

「風の森」の”緑のトンネル”と呼んでいる通り。あえて舗装せず、枕木を敷いて土を残している。ほぼ100%、車での来客とのこと。この通りは駐車場への経路にもなっており、枕木の振動音で来客がわかるようになっている。

国道からみた「風の森」。もさもさの緑に隠されて、モデルハウスも本社屋もまったく見えない。

総面積3000坪、東京ドーム約1/4個分。建物を売り物にする工務店にも関わらず、幹線道路からは建物の姿がひとつも見えない。本気の森だ。

 

 

3000坪ある「風の森」には、
実験的なお店やモデルハウスが13棟

「風の森」にある建物は13棟。その一部を社長の濵松和夫さんと、広報やプロモーションなどを担当する村上比子さんに案内してもらった。

 

生活雑貨の店「Zakka みち草」。

◆Zakka みち草

まず訪れたのは「Zakka みち草」。浜松建設直営の生活雑貨店で、地元作家による器や小物も置かれている。12年以上浜松建設に勤めているという女性スタッフ、永田さんが切り盛りしている。

 

カフェ「COZY」。

◆カフェ「COZY」

「COZY」は木の建物が多い「風の森」では珍しい、金属質の外観。崖地のため奥行きが確保できず、高さを出し内部空間に広がりを生み出すという工夫が込められた建物だ。
ハンバーグやスパゲティのプレートといった食事も充実する。訪れたお昼どきは、平日で雨模様にもかかわらず、店内はほぼ満席。「食事をするところがないと、風の森を訪れた人がゆっくりできないだろう」という濵松社長の思いから開設。当初は見よう見まねの自社運営だった。

 

ガーデニングショップ「風の森ガーデン」。

◆風の森ガーデン

ガーデニンググッズや観葉植物、木工家具など庭や緑にまつわる雑貨を多数揃える「風の森ガーデン」。森に点在する店舗群のひとつとして「風の森」に溶け込んでいる一方で、浜松建設で家づくりをしている方のガーデニングの相談も行っている。

 

モデルハウス「唐比の家」。

◆モデルハウス 唐比(からこ)の家

「唐比の家」は、元々ファミリー向けのモデルだったが、建てて10年で大人の家へとリフォームされている。落ち着いた内装で、1階の居間の横には座敷もある。モデルハウスは、ショップやカフェに混ざり、「風の森」内に2棟存在する。しかし「多くのお客様は風の森に遊びに来ているだけだから、驚かせてはいけない」と、あえて中にスタッフを置いていない。入って来た方のうち、家づくりに関心がありそうな方を慎重に見極め、そっと声をかけて建物の説明をするそうだ。(高度な技!)

ガレットとクレープの店「Amelie」。

◆Amelie

「ここでお昼、どうですか?」とうながされ、草屋根の建物にある小さなレストラン「Amelie」に入店する。いただいたのは、ランチセットのガレット。このテナントは、以前から風の森にお店を構えたいと考えていた現オーナーが2015年に開業したそうだ。店内は、古材の梁が走る天井の高い空間は居心地がよく、つい取材であることを忘れてくつろいでしまいそうになる……。

しかし現実問題、この規模の森を維持しながらテナントを入れて施設を運営しつづけるというのは、並大抵の負担ではない。3000坪の森は、1度業者による剪定を入れるだけでも10万円ほど飛んでいくそうだ。一方で「意欲のある人に出店して欲しいから」と、テナントの家賃はかなり抑えているという。なぜ「風の森」はつくられたのだろう。

 

「遊びに来てもらうなら、
森をつくるしかないと思った」

浜松建設の社長・濵松和夫さん。地元FM局のパーソナリティーも務めるそうで、朴訥とした島原弁の軽妙なトークが楽しい。

社長の濵松和夫さんは、約15年前にみかん畑だった山をまるごと購入。自らユンボを駆使して開墾し、雑木を植え、ゼロから「風の森」をつくったそうだ。開発は、ロハスという言葉もまだ浸透せず、森ガールも世に登場していない2002年にはじまったというから、先見の明があるし、行動力もすごい。何が濵松さんを森づくりに向かわせたのか、お話を聞いてみた。

——なぜ森をつくったんですか?

濵松 建設会社って、誰も遊びに来ないんです。どうしたら人が遊びに来てくれるかなあと考えて、森がいいんじゃないかと。なぜか? 常々、道路端に会社があるのは嫌だなあと思ってて。だってサボれないでしょ。でも奥まっていたら、バレない(笑)

——遊びに来てもらいたいから!? さらりとおっしゃいますが、森をつくるのは簡単なことではないですよね。

濵松 もう、親からは反対されてね。バカじゃないかと。何もないみかん畑を買って森にして、そこに会社を持って来るなんて、おかしいと思いますよね。

風の森の敷地を、ユンボを駆使してみかん畑を開墾中の濵松さん。

——普通、もっと町中につくることを勧めますね……。

濵松 そうそう。親の気持ちもわかる。常々「看板が目立つ場所に本社を置け」と言われていましたから。でも自分はハンデ背負いながらいろいろやって、驚かせるというのが好きで。

——勝負に出たわけですね。

濵松 風の森、利益出てるの? とよく聞かれますが、成り立つわけがない(笑)。でも人が来てくださることが利だと思っているので、一生懸命、場をつくっています。人が来てくれれば、何かが起きる。ファンをつくることが大事だと思う。

——普通の方にとって家をつくる機会は一生に一度あるかないかの、非日常のイベントです。そういうものごとに対してファン、つまり浜松建設さんに対して日常的にプラスの感情を持ち続ける人を育てるという発想をされていることが面白いです。なぜファンが大事だと思うのですか?

濵松 ファンになってもらえれば「何かあったら、頼みたい」と思っていただけるんじゃないかなと。半年前、自分が番組を持っているラジオ局の企画で40人を「風の森」に招待したんですが、そのときもスタッフには「絶対に営業しちゃだめ。いい気持ちで帰ってもらおう」と呼びかけて、ピザを振る舞ったり、木工教室をしたり、ひたすら楽しんでもらうことだけをやりました。

——なるほど。またいつかここに来たいな、会いたいなと思ってもらうことを大事にしているんですね。

「Amelie」アプローチ。緑に囲まれた建物の佇まいそのものが、若い女性客を引きつけている。

「遊びに来てもらう」ためにつくったという「風の森」は清々しい緑の中にかわいらしく個性的な建物や店舗がいくつも隠れていて、もし生活圏にあれば友達や家族と何度も足を運びたくなるような場所だ。そして何より大がかりな規模と、人をもてなし驚かせようというサービス精神に圧倒された。ところが浜松建設が運営する「遊びに行ける場所」はここだけではない。次回はもうひとつの施設「風びより」を紹介していく。


構成・文=平塚桂、写真=近藤泰岳、企画・編集=尾内志帆 

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