ぐるり雑考

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違和感を手放さない

8月末、ウェブ広報をテーマにした「びお」の研修合宿が京都で開かれ、初日の午後に、宮田さとるさんの話を聞こうという時間があった。
宮田さんはデザイン事務所・DRAFTを率いてきたアートディレクターで、以前、OMソーラー協会から生まれていた無数の素晴らしい印刷物を手がけていた人でもある。

研修には全国各地の工務店から、大工仕事や監督や積算などの本業とは少し外れたポジションにいる女性たち(ないし準ずる男性)数十名が集まった。彼女たちこそがこれからの工務店のキーパーソンで、PRの仕事を通じ活路を拓いてゆくに違いない、というのが研修を企画した町の工務店ネット・小池一三さんの考えだ。

僕は20年前、宮田さんにインタビューをさせていただいたことがある。そのとき投げかけた「どうすれば他人と違う成果を出せるんでしょう?」という漠とした質問に、彼は即答で「違和感を手放さないこと」と返してきた。
その瞬間、僕はずっと探していたパズルの最後のピースを見つけた気持ちになったのを憶えている。インタビューは始まったばかりなのに、思わず「ありがとうございました!」と帰りたくなってしまうような嬉しさがあった。

いま本当に感じていること。自分の実感を、ないことにしないで大事な手がかりにしてゆくことが、仕事を〝自分の仕事〟に、人生を〝自分の人生〟にしてゆく唯一の方法である、ということが瞬時にわかった気がして。

このとき宮田さんは「僕は1人の前でも、300人の前でも、同じように話せる人間でいたいんだよね」とも語っていた。
目の前の他人やその要求に気を取られず、自分に正直に存在しつづけること。違和感を手放さず、本人の言葉を本人の声で喋る。そんな人が一人でもいると、場の質が変わる。そして人々のコメントは「いい話を聞けた」「勉強になった」といった内容への評価より、「いい時間だった」とか「来てよかった」いう具合に、そこで共有したプロセスや場そのものの価値の方を指し始める。
京都の研修もそんな感じで、一同、実によく温まることが出来た。

宮田さんの肩書きはアートディレクターだけど、どんなプロジェクトの中でも、同じようなはたらきをしてきたのだろうなと思う。
それは、彼自身が常に「存在する」ことで、結果としてまわりにいる一人ひとりが「互いに自分であること」をより可能にする。そんな力だ。



西村佳哲  にしむら・よしあきプランニング・ディレクター、働き方研究家

1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。多摩美術大学、京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。

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