里山の色

馬酔木(あせび)

版画/たかだみつみ
2017年03月05日 日曜日

「陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出れば也」。二十四節気は啓蟄(けいちつ)、冬の間、地中にいた虫が冬ごもりから出てくると言われる頃です。

アセビは、ツツジ科の常緑低木で、庭木にも使われます。
珍しい木ではありませんが、「馬酔木」という字は珍しいですよね。馬が酔う木、とはどんな木なのでしょうか。

実はアセビは有毒植物です。葉にも花に樹皮にも毒があり、これを食べてしまった馬は、まるで酔ったようにふらつくことから、馬酔木、と名付けられたようです。漢字は当て字ですが、アセビという呼び名には、足の機能がそこなわれることから「足癈(アシジヒ)」と呼ばれた、という説や、毒性を虫除けとして使い、山遊びをするための木、ということで「アシビ(遊び)」という説もあります。いずれにしても、毒がこの植物の名を決定づけています。

有毒植物、というとなんだか棘がありますが、実は非常に多くの植物が毒性を持っています。
トリカブトは毒の強い植物として有名ですが、他にもスイセン(ニラと間違えて食べ、中毒になる人がいます)やアジサイにも毒性があります。観賞用だけでなく、食用とされるジャガイモでも、芽に含まれるソラニンの毒性はよく知られていますし、人には害のないタマネギも、犬や猫には禁忌だったりします。
一方で、トリカブトは漢方薬にも使われますし、アセビもまた、自然農薬として用いられます。

自然のものだから必ずしも安全、ということはありませんが、その毒を薬に転じることもまた、自然から恵みをいただいて生きる知恵ですね。
「毒にも薬にもならない」という言葉があるように、毒と薬は実態は非常に近いものです。あれは体にいい、あれは体に悪い、と断じる情報があちこちで見られますが、どんなものでも、時と場合によって、毒にもなれば薬にもなる、ということは忘れたくないですね。

明治の終わりに、「馬酔木(あしび)」という名を冠した根岸短歌会による歌誌がありました。
正岡子規が主催した根岸短歌会が、子規没後、子規派の歌誌を残そう、と刊行したものです。
これを「馬酔木」と命名したのは、編集会議による多数決で、多数の候補の中から、9名の編集委員中3票を獲得した馬酔木に決まったそうです。こちらの「馬酔木」は、資金難で終了し、後に子規門弟によって「アララギ」が創刊され、分派しながら今に至ります。

また、俳句雑誌として大正に発刊された「馬酔木(あしび)」は、水原秋桜子を中心として編まれ、現在に至ります。

「馬酔木」の名がこうして使われる由来には、万葉集に詠まれる代表的な木の一つだったからかもしれません。低山・平地に咲く花は、万葉の頃から人の心に日常的に染み込んでいて、それが少なくとも大正までは続いていたのでしょうね。

磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど 見すべき君がありと言わなくに 大伯皇女(万葉集巻二)

おっと、少し湿っぽくなってしまいました。今日から啓蟄。春の命を身近で探してみましょう。

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