びおの珠玉記事

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森里海から・仁尾の風穴

仁尾の風穴

香川県三豊市仁尾町で「風穴(ふうけつ)」が約半世紀ぶりに再発見されました。場所は志保山(しおやま)の中腹で、「(かます)街道」と呼ばれる仁尾から高瀬の比地に抜ける旧街道にその登山口はあります。登山口付近に車を止めれば、そこからは徒歩10分程度で風穴にたどり着けます。
  

志保山の風穴、〒769-1404 香川県三豊市仁尾町仁尾
 

風穴とは冷風が吹き出す洞窟や岩場のことを指し、冷蔵庫のなかった時代には“天然の冷蔵庫”として活用されていたようです。仁尾町の風穴にはコの字型の石垣が残されており(一部修復し再現)、石のすき間などから夏でも冷風が吹き出しています。

高く石積みされた石垣

コの字型に積まれた石地元の有志が石積を修復し元の姿を再現

世界遺産に指定された「富岡製糸場と絹産業遺産群」においては「荒船風穴」が蚕種の貯蔵施設として絹産業を支えていたことが知られています。仁尾の風穴もかつては蚕種の貯蔵施設として、蚕種を冷蔵し蚕の孵化を遅らせることで養蚕を年に複数回行うことを可能にしていたようです。規模はまったく違うものの、仁尾町でもかつて養蚕業が行われていた時期があったことが伺い知れます。

風穴を利用した建物 志保山風穴の蚕種貯蔵庫(「仁尾村誌」より)

香川大学工学部の長谷川教授によると、「冷風が出ているのは、崩落した安山岩が堆積(ガレ場)し、通過する風が地下水で冷やされているのではないか。冷風の吹き出し温度が12~13℃と低いことから、安山岩の堆積量(ガレ場長さ)は相当量あると推測する。風がどこからどのように流れて(入って)くるのかは、現時点ではわからない。」ということです。

身近にある地元の小さな産業遺産。是非足を運んでみてください・・・。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

編集部から
風穴は、本文中にもあるように、養蚕に用いられたり、他にも天然の冷蔵庫として利用されてきた記録が残っています。かつては「風穴業」と呼ばれる産業として成立していました。風穴養蚕は明治には国内で300箇所を数えたといわれています。
電気式の冷蔵庫が普及して、風穴業は衰退します。今回紹介した仁尾の風穴のように、その場所も忘れられ、後世になって「発見」されることがあります。

風穴は温度が低いことから、周辺とは植生が変わります。本来は高山にあるような植物が、低い標高でも見られることがあります。風穴めぐりをしたら、ぜひ植物にも目を向けてみてください。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年08月23日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。