びおの珠玉記事

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睡眠デー・個と家族

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年03月16日の過去記事より再掲載)

寝室

3月18日は、「世界睡眠デー」。
日本人の睡眠時間が少ないことが話題になっています。

9割以上の人が睡眠中になる時刻は、1941年には22:50だったのが、1970年には0:00、1980年に0:15、1990年には0:45、2000年には1:00と、年を追うごとに遅くなっています。

起床時刻は、1970年以降それほど変わっていませんから、睡眠時間がみじかくなっている、ということになります。

平均睡眠時間は7時間50分、これは韓国についで世界2番目の短さ、日本人の睡眠は短い…という報道をよく見かけます(7時間50分って短いのか? というツッコミもありそうですが)。

寝不足による日中の眠気で起きる事故等による経済損失は年間3兆5000億円だとか、少なすぎても多すぎても健康を害するだとか、そういった話も、「睡眠」がらみではよく出てくる話です。

概して日本の睡眠はダメである、という自虐的な話が目につきます。ちょっと、目線を変えてみましょう。

現代では、よい眠りのために、とか、眠りが健康に影響する、というように、眠りは「個人」のことに分解されています。

時代をずいぶんさかのぼって、電灯が無いころのヨーロッパ。夜を照らそうとすれば火を灯すしかなく、誰でもやすやすと夜の部屋を明るくすることは出来ませんでした。

当然、外は暗く危険です。犯罪者や野獣、ひいては魔術や病気といったものも、夜の闇に乗じて襲ってくるとして恐れられていました。

夜は、今よりずっと怖いものだったのです。

家を閉ざし、外敵から身を守るだけでなく、ベッドにノミや南京虫がいないか確かめたりと、寝るためには今より周到な準備が必要でした。そして、家族で祈りを捧げて眠りにつきます。

欧米では個の重視がいわれ、個室で寝るスタイルをとり、それが近代日本にも輸入されたといわれています。

けれど、ヨーロッパの人たちがみな、昔から個別で寝ていたわけではありません。

ベッドは人類にとって、最高の集合場所である
サー・トマス・オーヴァーベリー(1614年)

こんな言葉もあるように、ヨーロッパでは夫婦と子どもが一緒に寝るどころか、旅行にいけば家族以外の人との同衾も普通だったといいます。夜は怖いものであり、人のぬくもり、安心感が欲しかったのでしょうか。

19世紀のプロイセンでは、「添い寝禁止令」が出されています。ヨーロッパ型の個人主義が進むにつれ、そういった個を重視する方向に進んでいって、現代のような、子は親と離れて独り寝をするスタイルになっていったようです。

日本にも「子ども室」というヨーロッパスタイルが輸入されてきましたが、実際のところ、小さい子がいる場合は「川の字」で寝ているという家の話をよく聞きます。

川の字の場合も、母親中央型、子ども中央型とでは少し意味合いが違っているようです。母親中央型の夫婦はお互いを「伴侶」と認識する率が高く、子ども中央型ではお互いを「子どもの父親・母親」と認識する率が最も高いという調査結果もあります。これを聞いてドキッとした人もいるのではないでしょうか。
そうそう、父親別室型の場合は「役に立つ同居人」扱いが多いのだとか。

別室寝はともかくとして、「川の字」で寝ている間は、子ども室の出番は少なくて、限られたスペース利用という点では、なんとももったいない。最初から子ども室を作らなくてもいいんです。後で仕切れば。

とかく個人の健康問題としてクローズアップされる「睡眠」ですけれど、家族の愛情表現や、関係性の構築に大きく影響するのは間違いないようです。睡眠は人と人との関わり合いの場である、と考えてみるのも、面白いじゃありませんか?

写真:上田明

参考書籍