びおの珠玉記事

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森里海から・ニゴロブナ

ニゴロブナニゴロブナ

珍味好きの私にとって、琵琶湖の鮒寿司は外せません。鮒寿司は「なれ鮨(主に魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品)」の一種で、ニゴロブナを原料に作られる滋賀県の郷土料理です。ニゴロブナは琵琶湖の固有種(すなわち世界中で琵琶湖水系にしか生息していない鮒)で、鮒寿司には本来このニゴロブナが使われます。鮒寿司が琵琶湖周辺だけの郷土料理、伝統食である理由がここにあります。

しかしながらニゴロブナの個体数は生息環境の悪化やブラックバスなど外来魚の侵略によって激減しており、絶滅危惧種(絶滅危惧IB類[環境省レッドリスト])に指定されています。そのため価格が高騰し、ヘラブナや銀ブナを代用した鮒寿司も作られています。しかしそれらは同じ鮒でも味が全く違うのです。

鮒寿司は独特の強い発酵臭があるため苦手な人も多いと思いますが、ヘラブナや銀ブナの鮒寿司を食べて美味しくないと敬遠している人も多いのではないかと想像します。鮒寿司はニゴロブナに限るのです。なかでも3月~4月の卵を持ったメスが最も美味しいのです。

本来は郷土料理、家庭料理として日常的に食べられる身近な「食」だったはずの鮒寿司が、今ではニゴロブナの個体数の激減による価格の高騰で、高級な手の届きにくい料理になりつつあります。生態系の衰弱が私たちの食文化にも徐々に悪影響をもたらしつつあるのです。生物多様性はそのまま日本の食文化の多様性に繋がります。和食が無形文化遺産に登録された今、日本の伝統的な食文化を失ってはならないと改めて思う今日この頃です。

鮒寿司ヘラブナや銀ブナではなく、琵琶湖個有のニゴロブナが本来の鮒寿司です。

鮒寿司の切り身本来は日常的に食べられる身近な食でしたが、今は。

お吸い物に浮かぶ鮒寿司鮒寿司のお吸い物

ニゴロブナを絶滅から救うために捕獲量を減らすことが重要なのではなく、以前のように需要に十分応えられるだけの漁獲量を確保しても個体数が減らないような生息環境を取り戻すことこそが最も重要なことなのではないでしょうか?

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年05月16日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。