びおの珠玉記事

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わらび

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年03月26日の過去記事より再掲載)

わらび
わらびをいただきました。山菜の中でもメジャーな存在で、珍しいものでもありませんが、やはり季節を告げる食べ物をいただくのは嬉しいものです。

さて、現代の山菜は、畑で栽培されているもの、輸入されて水煮で流通しているものなどさまざまですが、やはり山に入って採ってくるものにとどめをさします…といいたいところですが、かんたんにそうともいえません。

山で働く人達は、山菜の採れる場所をよく知っていますが、じゃあ教えてよ、なんて気楽に頼んだら、秘密の場所だから教えない、なんて言われたことがあります。
知る人ぞ知る、であった場所・コトが、あっというまにSNSで伝搬してしまって台無しに、ということは、山菜に限らずあちこちで起きています。
山菜を採りにいくにしても、ちょっと山に行ってみて、山菜に出会えなかったとしても、滝やら、何か春の景色が見られればいいかぁ、というぐらいの気持ちで行きましょう。

そうはいっても山菜はうまい。今回のわらびは、煮る、というよりお湯を通す、というような感じで美味しくいただきました。
と、喜んではおりますが、わらびのアクはとても強く、ビタミンを破壊する酵素があったり、発癌性物質が少量ながら含まれていたりするそうです。アク抜き、加熱をして、一度に大量に食べるのでなければ問題ないようです。やはり山菜はよくばってたくさんとるものではないのですね。

わらびのアク抜き

アクをきちんと抜くこと。

さて、わらびの根茎からはでんぷん質が採れます。
このでんぷんは「わらび粉」として、わらび餅に用いられる…といいたいところですが、市販の「わらび餅」として売られているものの多くには、実際のところ、わらび粉は使われていません。
本来のわらび餅は、その名のとおり、わらび粉から作られていましたが、いかんせん、わらび粉は少ししかとれません。というわけで、今や多くのわらび餅は、芋由来のでんぷんなどを用いた「なんちゃってわらび餅」になっています。
さらに「わらび餅粉」というアイテムも売られていたりします。個々の商品は、ここではとりあげませんけれど、Googleのショッピング検索でいろいろ出てきます。

甘薯がわらびを駆逐した、ということでしょうか。わらびを使おうが使うまいが、「わらび餅」。
昨年次々に報じられた「鮮魚」偽装どころか、別段原材料に偽装もせずに名前だけ使っている、と考えると、なんだかそら恐ろしくなります。

かつて、わらび粉は貴重な資源でした。わらび粉は食用だけでなく、糊にも用いられ、換金作物としてもわらびは価値を持っていました。
根茎を掘り出してしまえば、翌年はそこからわらびは生えませんから、根こそぎ掘ってしまうようなことは厳禁だったのです。
そういう知恵や気配りが、今の私たちには、ずいぶんと少なくなってしまいました。

石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 志貴皇子

垂水(滝)の上ではわらびが芽吹き、春になったなあ、と。素敵な風景ですね。
万葉集巻八の巻頭歌であり、よく知られた歌です。

望めばいろいろなものがいつでも手に入る時代、山菜も輸入品の水煮が年中売られていたりしますが、やっぱり自分だけの秘密の場所や、知り合いのつてで、今だけしか手に入らない旬の食べ物として、大切にいただきましょう。

さて、野生の山菜は、福島第一原発事故の影響を受けて、3年目の春を迎えてもなお出荷制限されている地域があります。経済的には大きな影響はないのかもしれません。山菜がなくても、人は生きていくことは出来ます。けれど、山に歩み入って、春を愉しむことが出来なくて、それで復興、といえるのでしょうか。人はパンのみにて生きるにあらずです。山菜を愉しもう、としながらも、日本にそれが出来ない地域が出来てしまったことが、まったく残念で、悔しくてなりません。