森里海の色
柿木村の一輪挿し
「マツヨイグサ」

待宵草 まつよいぐさ

晩夏、朝散歩の川土手に待宵草咲いていた。
宵待ち草と言うほうが何だかしっくりするのは

 待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ
 今宵は月も出ぬさうな

の竹久夢二の世界を知る世代だからなのだろう。

淑やかなほの黄色の花弁はあくまでも寡黙であり、あれだけ暑かった夏を既に記憶の彼方に追いやり足下に迫る秋の気配に侘しさを纏う女心を想わせる。

若い頃は赤い薔薇や華やかな花束が心をときめかせた。

今は雄弁な花より寡黙な花が好きだ。

年を重ねるにつけ人は侘び寂びの世界に陥っていくのだろう。

其のことが良いのか悪いのかは分からない。

いつまでも尖がって生きて行きたいとも思うし、そろそろ丸くならなくちゃと
思ってみたりもする。

今夏のロックフェスティバルのボブ・ディランの話題を聴くにつけ待宵草を眺めながらそんなことを想い巡らせるのだ。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。