びおの珠玉記事

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気温以外の暑さ

太陽

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2013年07月12日の過去記事より再掲載)

東北・北陸を除いてはすでに梅雨明けをして、例年よりもだいぶ早い夏を迎えました。
梅雨が開けたとたんに、全国的に猛暑に襲われました。「びお」の編集部がある浜松市も、連日の真夏日です。

マスメディア等では、熱中症の搬送人数が増えたことを喧伝し、暑い時にはむりせずエアコンを、という呼び掛けがみられます。
気象予報士の森田正光さんは、「千年猛暑」という言葉を使っています。あたかも今年がその猛暑になるかのように報じているメディアもありますが、有史以来最も気温が高かったといわれる1000年前に比べても暑い、ということで、そのように名付けているそうです。

太陽と人の体、どっちが熱い?

この時期、外に出るとあまりに強烈な陽射しに、太陽のことをちょっと恨めしく思ったりもします。もっとも太陽がなければ、地球は極寒の惑星になってしまいますから、そんな恨み言は御門違いなのですが…。

太陽から地球に届いているエネルギーは、その全体の22億分の1といわれています。22億分の1でこの暑さ。太陽とは如何に大きなエネルギーを持っているのでしょうか。

太陽

私たち人間も、太陽のように大きなエネルギーこそ出しませんが、発熱をしています。人は食事をし、呼吸をしています。これらの活動をすると熱が発生します。

さて、まったく異質の太陽と人ではありますが、発熱体であることに変わりありません。その両社の、1kgあたりの発熱量を求めてみます。

太陽の1分あたり、1kgあたりの発熱量は、1.95×10^-4W/kgとなります。
かたや人間の体のほうは、60kgの成人男子、1日のカロリー摂取量を2400kcal、それがすべて熱に変わるとして求めてみると、1分あたりの発熱量は1.95W/kg。

なんと、重量あたりでみれば、人は太陽の10000倍もの発熱量を持っているのです。摂取カロリーの半分が熱になるとしても、5000倍です。

人は体温を36℃前後に保つために、重量比では太陽の10000倍もの熱を棄てている、ということになります。人の体が強烈な発熱体である、という前提で、暑さを考えなければいけません。

暑さとは何か?

最高気温が35℃を超えた日のことを、「猛暑日」と呼びます。かつては、30℃を超えた「真夏日」が最上位だったのですが、あまりにも暑い日が続くため、2007年に猛暑日が制定されました。

このところ、連日猛暑の報道で、どこそこが何℃、という話ばかりを目にしますが、実際に人が暑さを感じる要素は、空気の温度だけではありません。

人が暑さを感じるのには、気温の他に、放射温度、空気流速、湿度、代謝量、着衣量が影響します。自分自身が発熱していますから、その熱をどう棄てるか、ということが重要になってきます。

放射温度。まわりにあるものから出てくる熱です。家の中にいても、テレビやパソコン、照明などが出している熱は、放射温度として人に伝わり、暑く感じます。家電等だけでなく、人の体からも放射熱は出ていますし、建物の内部でも天井や壁、床といった部分の熱も放射温度として伝わってきます。
太陽の陽射しが暑い、というのも、太陽からの放射熱です。
天上、壁、床からの放射熱が少なくなれば、気温が多少高くても暑く感じることが少なくなります。

空気流速(風速)は、体の回りの熱を吹き飛ばすことに影響します。風がないと、体の熱が周囲に残って逃げにくいため、暑く感じます。

湿度が高ければ、汗が蒸発しにくくなります。人は夏だけでなく、冬であっても発熱しています。夏冬で量の違いはあるものの、肌は汗で湿り、蒸発することで体を冷やしています。汗が蒸発しにくくなると、体の熱を逃がしにくくなり、暑く感じます。

代謝量は、人の活動による発熱です。人は、いわば食べ物を燃やして活動しているわけで、その分の熱が出ます。運動をすれば、代謝も多くなり暑くなります。

着衣量によって暑さが変わるのは、みなさん実感している通りですが、冬も、寒さをしのぐだけでなく、自身の発熱を調整するために服を厚くします。着衣の量によって、熱を外に棄てる速さをコントロールすることで、暑さ・寒さを調整しているのです。

参考書籍

熱中症が予想される、予防にエアコンを使おう、という呼び掛けが目につきます。

私自身も熱中症でダウンした経験がありますし、より重い熱中症患者を目の当たりにした経験もあります。命に関わる重要なことであるということは認識しています。ですから、熱中症を根性論で乗り切ろう、とはいいません。
しかし、エアコンだけでは限界、というよりも、偏りがあるのです。
エアコンは、気温をコントロールするものです。副作用的に湿度を下げ、中には風を直接人体に当てることで体感温度を下げよう、というものもありますが、放射温度や代謝量、着衣量は直接コントロール出来ません。まさに「エアー」の「コンディショナー」にすぎないのです。

放射熱をどれだけ小さく出来るか、空気の流速をどれだけ得られるか、湿度がどれだけ下げられるか。これらは、住まいのもともと持っている性能です。太陽からの放射熱を防ぐためには、遮熱・断熱をします。空気流速を得るために通風をとり、湿度は木や土といった調湿性のある建材がそれを行います。
そしてどんな服を着て(着衣量)、どんな生活を送っているか(代謝量)によっても暑さはまるで変わります。

こうしたことを十把一絡げに、エアコンだけで片付けようなんて、ちょっと乱暴ではないですか。

暑さを待つ人

ところが、暑さに期待し、エアコンを推奨する人もいるようです。

気温と湿度によって不快指数という値が決まりますが、このメールの話が本当だとすれば、それこそが真の「不快指数」を高めるのでは…。